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ユカイ工学に聞く、スタートアップが知っておきたいコト

ユカイ工学CTOが語るプロダクトのアイデア出しやモックアップ開発で押さえるべきポイント

これからスタートアップとしてプロダクトを生み出したい、またはそれを量産したいといった場合、さまざまな障壁が立ちはだかります。今、ものづくりの最前線で活躍し、ユニークなプロダクトを生み出し続けている先人達は、どのようにして乗り越えてきたのでしょうか?

2007年12月の創業以来、ココナッチやBOCCO、iDollなどユニークなコミュニケーションロボットを生み出し続けているユカイ工学CTO鷺坂隆志さんに、アイデア出しやモックアップ開発において押さえるべきポイントを伺いました。(取材:桜庭康人、越智岳人 文:相川賢太郎)

鷺坂 隆志(ユカイ工学CTO)
2007年12月、東京大学大学院(機械情報専攻)在学中に、当時チームラボのCTOであった青木俊介氏と共にロボティクスベンチャー、ユカイ工学を創業。2012年に東京大学ISI Labで書き上げた研究論文「皮膚の変形に追従する高密度触覚センサグローブの開発」で日本ロボット学会研究奨励賞を受賞。2014年に東京大学大学院博士課程を満期退学し、現職に至る。得意とする、回路設計や電子機器のファームウェア開発といった電気技術、有線や無線での情報通信技術を生かし、これまで十数件の開発プロジェクトに携わる。現在は、コミュニケーションロボットのBOCCOや、音声に合わせて動くロボットのiDollなど、ユニークなアイデアロボットやプロダクトのソフトウェア開発、量産工程開発に従事している。

企画からBOCCOのモックアップ製作に至るまで

ユカイ工学が2015年にリリースした、家族をつなぐコミュニケーションロボットBOCCO。これは、外出中の親がスマホに「そろそろ帰るよ」と言えば、家にいるBOCCOがその声を子どもに直接伝えてくれるというもの。その愛らしい形状もBOCCOの特徴の1つといえるでしょう。しかし「実は企画当初は量産品とは全く違った形状をしていたんですよ」と鷺坂さんは言います。

BOCCOのプロトタイプの変遷。けん玉型のデザインで検討されていた時期もあった BOCCOのプロトタイプの変遷。けん玉型のデザインで検討されていた時期もあった

「最初は自分で3Dプリンタを使ってBOCCOのモックアップを作りました。企画当初は丸い形状をしていたBOCCOですが、弊社青木から突然送られてきた競技用けん玉に着想を得て、けん玉をベースにした形状に変わりました。その後、徐々に丸くなり、四角になって、座って、立ったみたいな感じで現形状に落ち着きました」と鷺坂さん。アイデアを出し、実際にモックアップを作ってみる。意見交換をしながら形状変更を繰り返すことが重要なのだそうです。

そもそもBOCCOは2014年10月に開催されたCEATEC JAPAN 2014への出展用に、同年8月に企画されたのだといいます。企画からモックアップ開発までわずか2カ月というから驚きです。一体なぜそのような短期間で開発できたのでしょうか? それには理由があると鷺坂さんは話します。

「BOCCOがこんなに早く開発できたのは、弊社が過去に開発したkonashiなど、過去の知見をできる限り流用したことや、外装デザインを社内の3DプリンタやCNCを使って進めたからだと思います。展示会まで時間がなかったので、その中で完成させるにはどうすればいいか? を考えました。普通は新しいファームウェアを開発すると、それが正常に動くかどうか? を確認する時間が必要になってきます。でも、過去の知見を使えば、それを省けますし、その性能についても熟知しているはずです。削れる時間をできる限り削った上で人数を投入したからこそ、短期間で開発できたと思います」

スタートアップとして、会社として、持続的に新しいものを作り続けていくためには、新しいものを生み出すということだけではなく「どうすれば時間をかけずに“新しいもの”を作れるか?」を考えることも重要になってくるようです。また、鷺坂さんは、ファームウェアなどを開発する際「これは将来的に他のプロダクトにも使えるかどうか?」についても考えるのだそうです。そういった将来の時間短縮を見越して日々開発に取り組んでいるからこそ、結果として短期間での開発が可能になっているのでしょう。

ArduinoやRaspberry Piで開発を進めるメリット、デメリット

数々の障害を乗り越えてきたエピソードを真剣な表情で語ってくれた鷺坂さん 数々の障害を乗り越えてきたエピソードを真剣な表情で語ってくれた鷺坂さん
ArduinoとRaspberry Piをつかって試作されたBOCCOの初代プロトタイプ ArduinoとRaspberry Piをつかって試作されたBOCCOの初代プロトタイプ

主にArduinoやRaspberry Piなどを使って開発が進められたというBOCCO。これらオープンソースハードウェアを使うことには、さまざまなメリットがあると鷺坂さんは言います。

「主にRaspberry PiやArduinoを使うメリットは、既存のライブラリを流用することで簡単に試作できて、開発期間が圧縮できることですね。通信を受けて、サーボを回す、LEDを光らせる、といった感じで、一言で言えることが、ソースコード上でもだいたい一言で書けるようになっています。」

一方、デメリットもあると言います。

「ArduinoやRaspberry Piは試作する上ではすごく便利なのですが、ライセンス上そのまま製品にできないこともあります。例えばArduinoを使って製品を開発した場合、そのソースコードやハードウェアのCADデータなどを公開しなければいけないことがあります。当然そういったことは社外秘にすべき情報なので、BOCCOの場合はArduinoを使って試作し、量産向けにはCPUはそのまま、ソースやハードはライセンスに依存しない形で組み込み直しています。」

オープンソースは開発期間を圧縮できるという意味で確かに便利かもしれません。しかし、一方でライセンス関係はどうなっているのか? 仮に量産時にすべて書き換えるとすれば、どんな問題が起きるのか? そのメリットやデメリットを事前に考慮し、調査した上で使うことが重要なようです。

BOCCOのプロトタイプから製品になるまで

ソーシャルコミュニケーションロボット「BOCCO」 ソーシャルコミュニケーションロボット「BOCCO」

BOCCO開発当初には、さまざまな苦労があったのだそうです。またその苦労がユカイ工学の開発にも生かされていると鷺坂さんは言います。

「実際、ArduinoやRaspberry Piなどを使うメリットやデメリットはよく知られていることだと思うんですよ。でも意外と知られていないのが、MP3などもライセンスものだっていうことですね。開発を進めていると『あ、これもライセンス絡むんだ』っていうものが突然出てきたりするんですよ。試作時のBOCCOは、MP3形式に音源を圧縮して、それをデータとして飛ばして再生するといった仕組みにしていたのですが、リリース1カ月前にMP3のライセンス問題が出てきたんです。ライセンスフィーなども不透明だったので、最終的にはソースコードなどデータを公開しなくてもいいような別のOGG形式に変換するソフトウェアに変更することになりました。それによって製品のパフォーマンスが落ちてしまい、時間もなかったので、修正が本当に大変でした。それ以来すべてのライセンスについて、事前に調査しておくようになりましたね」

最後に、鷺坂さんはもう一つ、スタートアップが見落としがちなポイントについても教えてくれました。

「ずばりMACアドレスですね。たとえば各パソコンや通信機器に割り振られていますが、それぞれが固有のIDを持っているんです。固有であることを保証するため、IEEEからアドレス範囲を買って、その範囲で製品1個ずつに異なるIDを振らないといけません。開発時にはその辺を意識せずに済むのですが、それをそのまま世の中にリリースしちゃってるプロダクトもたまに見かけるので、そういった細かい点にも気をくばる癖をつけたいですね」

プロダクトを開発、そして世の中にリリースするためには、アイデアや技術の他にも、オープンソースのライセンスやMACアドレスといった細かな点にも注意し、事前に調査しておいた方がいいようです。

まとめ

いかがでしたか? 実際に世の中にプロダクトを生み出してきた人が、アイデア出しからモックアップ開発まででどんな障壁を経験し、どのようにそれを乗り越えてきたのかを知れば、いま自分が悩んでいる問題が解決する糸口につながるかもしれません。次回は多くの人が悩むポイントである、通信技術を使った製品を作る際に押さえるべきポイントについて伺います。

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