頭の悪いメカ by 藤原麻里菜
スタバでメッセージを書いてもらえない人に贈るマシーン
皆さんは、スターバックスでテイクアウトした際、カップにメッセージを書かれたことはありますか? 私はありません。
私はコーヒーが大好きで、よく飲みます。スターバックスは少しリッチな感じがあり、お金が入って強気になったときに使わせてもらっております。
メニューを見ると『フラペチーノ』や『マキアート』や『グランデ』など、意味はよく分からないけれどオシャレな響きの単語がたくさんあり、スタバにいるだけで、広尾に住んでいる帰国子女になった気分になれますよね。実際は、ただの無職なのですが。
そんなことを忘れさせてくれる魔力が、スタバにはあります。
スタバのカップを手にした時、人々は、スマホを取り出し写真を撮影し、インスタにアップする仕組みになっています。私も例外ではないのですが、どうしても撮影をためらってしまいます。なぜなら、カップにメッセージが書いていないから。
スタバの店員さんは、国内チェーンにはない海外の余裕感が漂っており、たまに「Thank you」や「寒いですね」などのメッセージを可愛いイラストとともにカップに書いてくれるときがあるそうです。都市伝説かと思っていたのですが、SNSを見る限り実在するっぽいんですよね。
前述の通り、私は、メッセージを書かれた経験がありません。まあ、この陰鬱とした雰囲気の女に届けるメッセージなんて「あんまり気に病まないでくださいね」くらいしかないので、しょうがない。今後も書かれることなんてないだろう。そう思ったので、「自分でカップにメッセージを書けるマシーン」を作りたいと思いました。
地獄の制作が始まった
早速、設計図を書きました。
このイラストでは全く伝わらないと思いますので、補足説明をしますと、中にカップをいれて、ローラーをコロコロすることで、ステンシルのように文字が写る仕組みになっています。
この設計図を元に、CADソフトを使いモデリングをしていきます。
スターバックスのトールサイズのカップの寸法を測り、それを元に設計をしていきます。
使用したソフトは、Autodeskから出ているFusion360。
私は初めて3DCADを使用したのですが、とても直感的に操作できました(それでも10時間くらいかかったけれど)。難しいと勝手に思っていたCADソフトがこんなにも簡単だったなんて……。これからは、人生のありとあらゆる場面でモデリングをしていこうと思いました。だって、自分にピッタリの棺おけさえも作ることができるんですよ! 使わない手はない!
制作した3Dデータを3Dプリンターで形にしていきます。
印刷ボタンを押したら、3Dプリンターが頑張ってくれます。がんばれー!
3時間ほどで出力が完了しました。穴が空いている部分はサポート材と呼ばれるものが付いています。
土台(セルボード)から、造形物をメリメリ……と剥がします。お好み焼き屋で、鉄板についた焦げを剥がすみたいな感覚です。
サポート材もメリメリ……と剥がしたら、完璧です。スタバのカップもしっかりハマりました。
外箱のほうも出力をして、組み合わせると、なんとピッタリ! 当たり前なのですが、ピッタリハマるということって、今までの人生であまりなかったので、テンションが上がりますね。
完成間近!
カップに写したいメッセージをレーザーカッターで切り出します。
インクを染み込ませたスポンジローラーを中に入れ、先ほど切り出した紙をカップに貼り付けました。あとは、ちょこっと出ている金属のハンドルを左右に動かせば、メッセージがカップに写るという訳です。では「いっちょやったりますか」と腕をまくってプリントしたものがコチラになります。
……。
紙が厚くて隙間からインクが漏れてしまったことが原因で、ロールシャッハテストのようになってしまった模様。
全くインスタ映えしませんし、仮にインスタにアップしたところで「スタバの店員に絶妙な嫌がらせを受けている」と思われかねません。
ステンシルは諦め、スタンプ形式で再チャレンジしたいと思います。
レーザーカッターを使い、ゴム板をスタンプにしました。ちなみに、レーザーカッターでゴムを加工すると、出力中めちゃくちゃ臭くなるので要注意です。
ついに完成!
ついに完成です。とてつもない時間を費やしてしまいました。
後ろには、文字をあしらいました。早速、スタバを買いに行きます。
こちらが、手に入れたキャラメルフラペチーノ。「これでメッセージ書かれちゃったら企画倒れだから、頼むよ〜〜」と思いながら購入したのですが、やはりメッセージは書いてありませんでした。悲しい。
しかし、スタバのカップをセットして
レバーを押すと、
メッセージがプリントされるのである!
ビックリするくらい薄いし下の「you」はプリントされなかったのですが、少しだけ孤独感が和らいだ気持ちになりました。
ホット用のカップ。こちらにも何も書いておりません。私に伝えたいメッセージはないのか。
しかし、レバーを押すと、
じゃじゃーん!
メッセージがプリントされました。「スタンプで押しただろ」という跡が残っていて、虚無感を増幅させているようにも感じ取れますが、それもまた人生。
終わりに
モデリングに10時間、出力に10時間、プリントの構造を作るのに20時間ほどかかったが、無事に自己顕示欲を満たすことができました。
なお、「自分で書けばいいじゃん」というコメントは禁止とします。