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HAKKOの女性グループ「はんだづけ小町」に学ぶ、はんだライフの始め方
皆さんは「はんだこて」にどんなイメージを持っていますか? 電子工作には欠かせないもの、昔学校で使ったけど、今は手に取っていないもの……。中には、ちょっと難しそうで、自分には関係のないものだと思うような人もいるかもしれません。そんな硬いイメージをなくすため、はんだこてメーカーの老舗である白光(以下HAKKO)から、女性社員がグループを結成して立ち上がりました。「はんだづけ小町」として活動する彼女たちに話を聞いてみると、はんだこての歴史や意外な側面が見えてきました。
きっかけは「マンゴーカラーのコロンとしたはんだこて」
お邪魔したのは、大阪市浪速区にあるHAKKOの本社。大量のはんだこてがひしめく部屋で、「はんだづけ小町」のメンバーが出迎えてくれました。お話を聞かせてくれたのは、直塚香波さんと篠原由佳さんです。
「今日はよろしくお願いします。いきなりですが、僕はMaker Faire Tokyo 2017で皆さんのブースにあったはんだこての顔ハメパネルを見て、かなり衝撃を受けました」 |
「ありがとうございます(笑) Maker Faire以外にも「OSAKA手づくりフェア」や「日本ホビーショー」などのイベントにも出展して、はんだ付け体験やアクセサリー、オリジナルグッズなどの販売を行っています。手芸系の趣味をたしなむ方が多い場所だと、「はんだこてって何?」という反応をされることもありますね」 |
「はんだ付けとはあまり縁のなさそうなイベントにも出展されているんですね! はんだづけ小町の結成のきっかけを教えてもらえますか?」 |
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「私たちも入社した当時は、はんだこては工場だけで使われているようなイメージがありました。そこからいろいろな業務に携わっていくと、アクセサリーとかかわいいものを作るのにもはんだこてが使われていることが分かったんです。 見た目もロボットみたいにゴツゴツしたものだけじゃなくて、中にはマンゴーカラーのコロンとしたデザインのはんだこてもあるんです。同じフロアの女子で話しているうちに、そういう使い道や機種があることをもっと知ってもらいたいと思うようになり、グループとしての活動が始まりました」 |
こちらが“マンゴーカラーのコロンとしたやつ”こと「my pen(FD-200)」。確かにかわいらしいたたずまいですね。通常のはんだ付けに加え、木質のものを焦がして装飾する「ウッドバーニング」という技法にも使うことができます。
時代と共に移り変わるはんだこて
はんだづけ小町結成のきっかけには、はんだこてのデザインが大きく関わっていました。そして、HAKKOの社屋にはこれまで販売したはんだこてが全て展示してあります。せっかくの機会なので、これまでのデザインの変遷を追ってみましょう! ガイドを務めていただくのは、はんだづけ小町のリーダーの真砂明子さんです。
こちらはHAKKOが最初に販売したはんだこて。スイッチはおろか、電源コードすらありません。はんだこての原型ともいえるシンプルさですね。左側の銅製こて先を熱して使うようです。
右から左に向けて時代が進み、はんだこてのこて先部分がどんどんスマートになっていくのが見て取れます。これは電子パーツの小型化によって必要な熱容量が少なくなったのが理由なんだとか。また、成形技術の進歩で、持ち手部分も木製からプラスチックに変わっていきました。
「これ、温度コントロール機能を初めて搭載したモデルなんですが、スケルトンデザインを採用した最初の機種でもあります。なぜだか分かりますか?」 |
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「……カッコいいから?」 |
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「違います。新しい機能を付けた分だけ価格が上がったのですが、いままで通り中が見えないような外装で売っていたら、なんで値段が高くなっているんだ? と言われてしまったんです。見えないところに高価な部品があったので、理由が伝わりづらかったんですね。それならば、いっそ中身を見せてしまおうという発想で、温度を調整する部品が直接見えるスケルトンデザインが採用されました。こういう柔軟な考え方がHAKKOらしいところですね」 |
かつて工場でよく使われていた、ステーション型のはんだこて。現在とは違って、黒字に金色というかなり無骨で男らしい色合いです。模倣品には今でもこのカラーリングが多いんだとか。
「ようやく見慣れたカラーリングになってきました。この青と黄色の組み合わせには、何か理由があるのでしょうか?」 |
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「黒地に金のカラーリングがしばらく続いたのですが、工場ではんだ付けの作業を担当する方って、実は世界的に見ても女性の方が圧倒的に多いんです。そこで、女性が毎日使っても抵抗がないようなサイズ感やカラーリングを取り入れるようになりました。コード類も女性が取り回ししやすい柔らかいものを採用するなどしました。特にカラーリングはプロダクトの生産ラインがきれいに見えるということもあり、海外のお客様にもとても喜ばれています」 |
「工場にはそれこそ一日中はんだこてを持ち続けている人たちがいます。そういう方たちにも使っていただけるよう、機能性はもちろん見た目も含めたデザイン性の高いものを作ろうという意識はすごく強いです。なんといっても、やはり直接手に取るものですからね」 |
技術の進歩、そしてユーザーとの関係の中で変化してきたはんだこて。親しみの持てるデザインにも、しっかりと理由があったんですね。