MATHRAXインタビュー
絵筆をはんだごてに持ちかえたはんだ付けコンテストチャンピオン
■ 油絵に魅せられて絵筆を持つが……
その後は次第に油絵に興味を持つようになり、やがて多摩美術大学の絵画科油画専攻へ進学。入学後は未経験のボクシング部に入ったり、髪型をモヒカンにしたりと、さまざまな経験にチャレンジしたが、肝心の授業には満足感は得られなかったそうだ。
「予備校時代に自分のやりたいことは大学に入ってからやれ、と言われていたのに、入っても意外とできない。それで、陶芸コースに移ったりと、転々としてました。」
■ 再びプログラミングと電子工作の世界へ
こうした中、しばらく遠ざかっていたパソコンの世界と電子工作の世界に再会する。
「油画専攻のある八王子校舎にはなかったのに、上野毛校舎にはMacがたくさんあったんです。そこでAdobe Directorにはまったんです。
そして、上野毛校舎のある先生が有名歌手の衣装の電飾を作っていた人で、それを組み立てるバイトをしたりしてました。その頃から、自分でも電子パーツを買いに行ったりするようになったんです」
電子工作のお助けマン「久世に訊け!!」
卒業後は多摩美大情報デザイン学科で学生と先生の間で授業の準備や連絡をこなす副手という仕事についた。
「学生からの質問を受けてたんですが、同じ質問ばかりされるので、その回答を集めた『久世に訊け!!』というサイトを作ったんです。その後多摩美や慶応大SFCなどで非常勤講師もしてたんですが、その頃に『久世に訊け!!』を見た建築設計の人から、階段を上ったら音が鳴るというセンシングの依頼が来たんです。それがきっかけとなって誰かの手助けということが仕事にできるかな?と思うようになりました。」
■ お助けマンから作家へ
やがてそうした仕事の依頼が続くようになり、2009年には坂本さんとMATHRAXを設立。そんな中、一つの問題に突き当たる。
「営業に行った時に、やりたい事を言葉で説明しても伝わらないことがよくあり、見せればすぐわかるような『自分の作品』が必要だと感じました。それまでデザインは自分の仕事じゃないという意識があって、自分の作品を作ることはありませんでしたが、シンプルなものでも自分達で最初から最後まで責任もってやらなきゃって思うようになって、自分の作品も作るようになりました。」
はんだごては絵筆のように
こうして洗練されていった久世さん坂本さんの作品の仕上げの美しさは、外見のみならず基板など作品の内部まで貫かれている。はんだ付けの美しさもチャンピオンの名に恥じることのないものだ。実はそこに、油絵の経験で培った絵筆の使い方が生かされていると言う。
「デッサンの心得として、頭で考えて先入観を持たずよく観察しろと言われてました。ちゃんと見ないで描くと嘘っぽいのを見抜かれちゃうんです。筆も決まった使い方はなくて、どう使おうとも自由だってさんざん言われて。だから、はんだごてとはこう使うものだ、じゃなくて、はんだがどう付いてどう流れていくといった、そこで起こる現象を見ながらそれに応じて使うようにしています」