学研「大人の科学マガジン」試作の匠 永岡昌光インタビュー
試作の匠・永岡昌光さんのものづくり哲学
試作で動かなければ量産で動くはずがない
永岡さんのもとには、試作品を作ったが動かないから原因を追求してほしい、という依頼が来ることもあるそうだ。
「試作の段階で動かないとき、試作できない人が『量産すれば大丈夫ですよ』と言うんですよ。試作は部品を全部同じ寸法に作れないけど、量産の時は機械で同じ寸法に作るのでちゃんと動きますよという理屈。けどそりゃ嘘だ。量産では公差を考慮しなきゃいけない。公差の範囲内でも、一番小さい値と大きい値の寸法の部品の組み合わせの時は、性能が大きく変わるんです。この公差が大きいと、バックラッシュといって、ギア同士の隙間のためモーターが少し動いただけでは部品が動かないということがある。すると、どうしても性能がいいやつ、悪いやつがでちゃう。だから少なくとも試作では、そうした公差を考慮した上で、これ以上のものは無理、という最高の精度で作らないと(きちんと動くかどうか)判断することができない。量産でそれ以上のものを作るのは無理ですから」
■ 「とりあえず作ってみよう」の先にあるもの
とは言え、3Dプリンタなどの現代のDIYツールが、「とりあえず作ってみよう」を合言葉にプロトタイピングのハードルを下げ、Makerムーブメントを盛り上げていることは間違いない。しかし、永岡さんの手がける“試作品”には、その先にたくさんのユーザーの手に届ける、という大きな目的が常に存在している。
「最初のスタートは、とりあえず作ってみましょうでいいよね。でも、それをだんだん変えていって、これでいいよねと(ブラッシュアップしていって)最終的な製品にしないと、ユーザーが手にしようとはしないよね」
ふろくの開発は、大人の科学マガジン編集長西村さんの提案に永岡さんが応える、という形でスタートすることもあれば、永岡さんの提案に西村さんがアイデアを加える、という形で進んでいくこともある。また、オランダの芸術家テオ・ヤンセン氏が生み出した巨大な動くオブジェをふろく化したシリーズのように、オリジナル作品をミニチュア化したものもあれば、センサやマイコンを使わずギアとカムの仕掛けだけで動く卓上ロボット掃除機のように、用途こそ同じでも、ちまたにあるロボット掃除機とは全く違う仕組みで動くものを作る場合もある。