学研「大人の科学マガジン」試作の匠 永岡昌光インタビュー
試作の匠・永岡昌光さんのものづくり哲学
ユニークなふろくが人気を集める大人の科学マガジン。そのふろくを手作りで試作する永岡昌光さんは、まさに現代の匠。その永岡さんに、若きエンジニアへのメッセージをいただきました。(撮影:加藤甫)
試作の匠・永岡昌光さん
ある年代以上には懐かしい“学研のおばちゃん”の CM ソング。「学研○年の科学」のふろくは、それを組み立てることで科学や技術の原理と仕組みを学ぶことができた。学ぶことの楽しさをこのふろくで教わったという人も多いことだろう。その大人版である「学研大人の科学マガジン」も、ユニークでクオリティの高いふろくが人気を集め続けている。fabcrossでも改造ロボット掃除機による相撲大会や、羽ばたき飛行機ワークショップのレポートなど、たびたび取り上げてきた。
今年公開された映画「おとなのかがく」は、そんなふろくのプロトタイプを作り続けてきた“試作屋”こと、永岡昌光さんに密着したドキュメンタリー。永岡さんは学研で「電子ブロック」など数々のおもちゃの企画製作に長年携わり、退社後に工房「匠」を設立。ワンルームマンションの一室に構えた工房には、リビングのデスクにさまざまな工具や部品が整然と並び、キッチンには小型旋盤やフライス盤などの工作機械が並ぶ。これらを使い、永岡さん自身の手でギアやカムなどの試作品の部品を、1/100mm単位の正確さで作り上げる様子をスクリーンに映し出した。
■ なぜ3Dプリンタを使わないのか
fabcross の取材日に偶然現場に居合わせた映画「おとなのかがく」の監督・忠地裕子さんは、観客から「永岡さんはなぜ3Dプリンタを使わないのか?」と質問されたと言う。永岡さんにその質問をぶつけてみると
「3Dプリンタは自分の手で作れない人にとってはすごい武器・道具になるけど、設計や出力にそれぞれ何時間もかけてとなったら、1日じゃできない。でも我々はほんの何時間かで作らないといけない。3Dプリンタで曲線のものを作ろうとするとどうしても表面が階段状になっちゃうからそれを削らなきゃいけなかったり、内容物を0.5mmずらすとなったら、できあがるのはまた明日とかなっちゃう。それよりもカットして平らにして接着すれば、その方が全然早い」
また、完成品と同じカタチを作る、というだけでは試作品としての用をなさない。その仕組みや機構を検証しながら、量産品と同じ、もしくはそれ以上の精度で動作する“一点もの”を作らなければならないのだ。
「3Dプリンタでカタチを作る前の、仕組みはこれでほんとにいいの? これでほんとに性能でるの? っていうのをやるのが私の仕事。その検証には最終的に使う材料で作らないと、強度や動きがどうなるか判断できない。今の3Dプリンタの材料は、実際に製品版で使用する材料で出力できないので検証ができないんです」