学研「大人の科学マガジン」試作の匠 永岡昌光インタビュー
試作の匠・永岡昌光さんのものづくり哲学
「これ作れよ、って言われて、はいっ、て作るわけじゃないんです。何か“What's new”がなかったらダメ。前にあったようなものを作るにしても、今の材料使ったらどうなるか、性能を良くするにはどうするかとかがなかったら、売れるわけがない。これを前に買った人がもう一回買いたい、という領域に商品をもっていかなきゃきゃダメ。オリジナルがあってまねしようというものは、オリジナルが動いてるんだから最終的には動くだろうというのがわかる。そうじゃないやつは、できるかどうかわからないけど、今まで見たことない物をやらないといけないんだよね」
■ 試作屋界の現状
そんな強いこだわりを持って試作を生み出し続ける永岡さんだが、試作屋を巡る近年の状況には、強い危機感を抱いている。
「この会社を立ち上げて13年になるけど、最初の頃はそこそこのものを作れるおもちゃの試作屋がほかにもいた。でも最近は担当者が絵だけ描いて中国の工場にFAXで絵を送ったら、とりあえず試作品が(中国で中身を作って)できちゃう。それが動かない時は助けてくれって私に電話がかかってくる。それでどういう原理で動くの?って聞くと、担当者はわからないって。中国も図面とかアイデアを出せば試作品を作れるようになってきたけど、彼等のメカトロニクス開発の歴史には空白の期間があるから、メカ物は経験が必要で直ぐにはできないし、電子物はディスクリート(トランジスタや抵抗などの単一機能部品で構成された回路や製品)では作れない。今の技術で、ワンチップでやろうよと言ってくる。けど、そういうのはミニマムロットがあるし、途中で変更や修正するのは難しいんです」
■ 技術の継承に必要なこと
ブリキのおもちゃの時代からキャリアを重ねて来た永岡さん。その頃から積み重ねて来たのは知識やスキルだけではない。工房の片隅に重ねられたケースには、0.1mm以下のサイズ違いでギアやシャフトなどが整然と収められている。
「その頃からの部品をみんな持ってる。これがあるから私はどんなものでもすぐ作れるのよ。今の人はまずこういう部品が手もとにない。あっても意味がわからない。そこから教えなきゃいけないわけけど、でもそれだけでは試作は無理だね」
さらにもう一つ、簡単には積み重ねることのできない重要な要素があるという。