moff 高萩昭範インタビュー
研究開発と仮説検証で導き出す、子供たちを笑顔にする「MoffBand」
画面ばかりを見る子どもたちが、どうやれば身体を使って遊んでくれるか
普段の問題意識として、携帯ゲームやスマートフォンやタブレットなどの普及によって、外に出かけてもゲームなどで遊ぶ子どもたちが増え、画面にばかり張り付き身体を使って遊ぶ経験がなくなっているのではないかと考えていたという。他にも、おもちゃにすぐに飽きてしまい、新しいおもちゃを買う度に経済的な負担が増えるといった課題もあったと語る。
「デジタルデバイスはこれからの生活に欠かせないもののひとつなので、引き離すのではなくうまく付き合う方法を考えないといけません。そうすると、画面というインターフェイスのせいでずっと下を向いてしまう姿勢に問題があるのかもしれません。そこで、デジタルでありながら、身体を使う遊びができるようになれば、課題は解決できるかもしれないと考えました」
そうした考えから、センサに合わせて音が鳴り、音に合わせて身体を動かすというアイデアを得た。しかし、取り付ける場所によってセンサの反応が変わるなど、一定のデータを得るのが難しいことがわかった。そこで、取り付けが簡単で、反応も安定化できる手首にセンサを固定すればいいのでは、といったアイデアから腕に装着するウェアラブルデバイス、といった形になった。さらに高萩氏は、ハードウェアを基盤にしつつもソフトウェアをアップデートして常に新しい要素を加えることが、結果的におもちゃの機能をアップデートさせることにつながると考え、現在のMoffBandの基本となるものが完成した。
エスノグラフィー、リーンスタートアップ、デザイン思考の重要性
もちろん、子どもの課題解決という視点から、センサを活用する発想や手首にセンサを固定させよう、といったアイデアがすぐに出てきたわけではない。実際にユーザーである子どもたちを毎日観察したり、子どもたちの両親にヒアリングしたりして、仮説検証を踏まえながらいくつものアイデアを持ちよって形作っていったという。
「毎日学童保育に通って子どもたちの普段の様子を観察したり、実際に保育士の体験をさせてもらいながら子どもと接してみたり、子どもと一緒に遊んだりしながらどういったシーンで身体を使って遊ぶのかを観察しました。机の上だけで考えるのではなく、エスノグラフィー(Ethnography)と呼ばれる観察手法と、実際の現場に足を運ぶフィールドワークを通じて観察と分析を行ない、そこで得た体験をレポートとしてまとめて整理していきました。そのレポートをチーム内で共有し、ユーザーである子どもたちの目線に立った製品を作り上げようと考えながら、アイデアを練っていきました」
当初はゲームなどで親子間のコミュニケーションが不足していることが問題ではと考えたが、分析やヒアリングを通じてどうしたら子どもと一緒に身体を使って遊ぶことができるのか、という点を見出したことが現在のMoffBandのアイデアへとつながったという。「ユーザーヒアリングを行う企業は多いが、中途半端が一番良くない」と高萩氏は指摘する。ヒアリング対象者が発している言葉をそのまま受け止めるのではなく、発言している人はどういった考えを持った人なのか、どういった環境でヒアリングしているのかなど、その人の考えや発言の背景などを理解しないと、本来解決したい課題や解決方法が見いだせないことがあるという。何が課題なのか、何が課題解決につながるのかをひたすら考え続けることが大事だという。こうして、何度もプロトタイプを作り、テストを重ねながら仮説検証して最短で目標に向かうリーンスタートアップの手法をもとに取り組んだと高萩氏は語る。
「フィールドワークを重視するエスノグラフィーという観察手法、プロトタイプから何度も仮説検証と修正を行うリーンスタートアップ、本質的な課題解決を追求し、そのアイデアを製品に落としこむデザイン思考。この3つの要素を大事にしながらものづくりに取り組んでいきました」