木の歯車工房 山上哲インタビュー
CADも使わず手書きで設計——プロもうなる超絶の木工メカニズム
歯車の組み合わせが生む機能美
「木のドーザショベル」に「木のショベルカー」。2作目以降も重機が続いた。
「『木のクレーン車』を作っているときにギヤ切り替えレバーに目がいってしまい、上下だけでなく横の動きも動力に使えることに気がつきました。そこで次の『木のドーザショベル』ではレバーの上下と左右の両方の動きに歯車をかませ、バケットの上昇と下降は上下の操作で、すくうとこぼすの動きは左右の操作にしました」
木のドーザショベル
「木のショベルカー」では歯車を通してブームからバケットへ動力を伝えている。木の歯車がカーブを描いて並ぶ様は美しい。しかし機能させるのは容易ではない。
木のショベルカー
「特に歯車の勉強を専門にしたわけではありません。何百枚と製作するうちに、なぜ動くか、動かないときはどうすればいいかがわかってきました。でもいつもその場その場で処理しているので、記録には残していません。自分でもどうやったか覚えていないことも多々あります」
作りたくなっちゃったので作りました
2つのショベル付き重機にはキャタピラがついている。これも当然のことながら木。
「キャタピラを木で作ったら、構造的に似ているチェーンも作りたくなっちゃいました。そして作ったのが2代目のフォークリフトです。タイヤの方向転換もフォークの上げ下げもチェーンで動きます」
上からのぞくと整然とパーツが並んでいる。見事な調和だ。
「最初に設計図があってそれに基づいてパーツを切っている訳ではなくて、どんどん組み立てていってのぞきながら作っています。『あそこに隙間があるから、あれを立てて……』といった感じです。位置的にぶつからないように配置し、不要と思う部分を削ったりします。気持ちの上ではなるべくシースルーにしたい。余分なものは取りたいんです」
取りすぎて強度に問題が出てくることも。でも解決法はある。
「不足する強度をどこから持ってくるか考えます。結果として強度を出すためにパーツの配置を変え、構造的にはさらに複雑になることもある。ときどき『無駄に複雑』という言われ方もしますが、自分の中では不要な部分は残しておけない。だから最終的にはまったく違う形になることもある。でもその方が面白いかなと思います」
最終形で変わってしまった作品には、どんなものがあるのだろうか?
注釈
- バケット:ショベルカーなどでブームの先端にある砂利や土をすくう容器。