木の歯車工房 山上哲インタビュー
CADも使わず手書きで設計——プロもうなる超絶の木工メカニズム
メカでストーリーを作る
目の前に置かれた作品は木に止まったキツツキ。木をつついているとイモムシが顔を出すが、「食べられてたまるか」といわんばかりに最後の最後でさっと引っ込む。結局キツツキはイモムシを食べられない。そんな一連の楽しい物語を歯車で表現している。同じメカで小さいものも娘の誕生日プレゼントに作った。
キツツキとイモムシ
この作品、当初のメカは横に組まれていた。じっと動きをみているうちに縦になり、木とキツツキが見えてきた。
「作品を作リ始めるとき、最終形は見えていません。あるのは動きのためのメカだけ。形は漠然としていても、ともかく作り始めます。よく直感で作っているように思われますが、頭の中でいつもシミュレーションを繰り返していますから、動きは見えています。でも形はどんどん変わっていきますね」
木を扱う難しさ
メカを作るなら、通常は金属の軸や歯車、素材にはプラスチックを使う。プラスチックは寸法を追い込んでいけばどこかで均衡点が見つかるが、木はそうはいかない。木は生きている。温度とか湿度とか、条件が変わると寸法が変化する。
独特の難しさがそこにある。
寸法の変化は特に歯車の噛み合わせに重要な変化をもたらす。そのために遊びを十分考慮してメカを作らなければならない。ただ、遊びがあっても見た目にそれを感じさせない仕上げが必要だ。
「歯車の素材としては硬くてかつ粘りのある木材が適しています。そこで探し当てたのが『ブビンガ』という木です。ともかくものすごく硬い。切るのも大変で、昔は1時間で1個切れるかどうかでした。今は適した糸鋸刃の選択、切りやすいように歯車図面の修正、経験による技術もあがり、1時間で3個は切れるようになりました」
ただし長期間作業から離れると腕は鈍るとのこと。
「作品を作っている最中はきれいにできますが、しばらくやってないと曲線でテーパーが付いてしまったり、少しふくらんで切ってしまったりといびつな歯車になってしまいます。感覚が鈍って処理が少しずつ遅れているというか……。
実は切るときには目だけではなく音、におい、指に伝わる振動・抵抗など、感覚を総動員しています。感覚が鋭くなっているときは同じ時間できれいにたくさん切れますし、けっこう厚いものも切れる」
扱いの難しい木にこだわって作品を作り続ける山上氏。その理由は何だろうか?
注釈
- テーパー:先に向かって細くなる形状。