慶應義塾大学SFC ファブキャンパス委員会インタビュー
「キャンパスを将来のファブ社会の実験場に」——慶應義塾大学SFCが進める“ファブキャンパス”が目指すもの
2013年に日本で初めて大学図書館内に自由に使える3Dプリンタを設置するなど、大学内にファブ施設を置くと何が起きるのか、という試みを早くから行ってきた慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(慶應義塾大学SFC)がこの4月、次の大きな一歩「ファブキャンパス計画」をスタートした。
ファブキャンパスでは、研究室ごとにばらばらに存在した工作機をいくつかの場所にまとめて一元的に管理し、学生なら誰でもオープンに利用できるようにするとともに、講習会や作品の設置、さらに作った後の廃棄プロセスまで考慮していくという。「キャンパス全体をスマートな循環型ファブリケーションの実験場とする」というこの新しい試みについて、学内に設置された「ファブキャンパス委員会」委員長である、環境情報学部の田中浩也教授、委員会メンバーである高汐一紀准教授、水野大二郎准教授にお話を伺った。(聞き手:越智岳人、佐々木千之 構成・文:佐々木千之 撮影:加藤甫)
——慶應義塾大学SFCには既に、3Dプリンタや3Dスキャナ、レーザーカッターなどが使える「ファブスペース」がメディアセンター(図書館)に設置されています。ファブキャンパスはそうした試みを学内全体に広げようとするものですよね。その狙いは何でしょうか。
田中教授「SFCには、建築やロボット、電気自動車、ドローン、ファッション、農業用センサ、インタラクションデザイン、僕のようにデジタル工作機械を作っている研究者まで、いろいろなジャンルの先生がいて、何らかの『ものづくり』に関わっている人々は過去からいました。5年くらい前からデジタルファブリケーションが広がりはじめ、各教員が個別の研究やプロジェクトで機材を購入していました。ところが、横の連携は取れておらず、似たような機材を買っていたり、研究室に入らないと機材が使えない状況になっていました。また、共有スペースにあったとしても場所・時間・利用規約など未整理で、学生の利用回数が激増するにつれて、どこに行けば何が使えるのか分からないといった声が出はじめていたんです。
そこで、キャンパス全体でどこにどんな工作機械があって、誰がどんな風に使えるのかをいったんすべて情報を集めて整理しようということになり、2015年10月にファブキャンパス委員会が立ち上がり、検討が始まりました。その際、いまや文学や社会学、経済学を学んでいる学生でもインターネットやパソコンを当たり前に使っているのだから、それと同じように、デジタルファブリケーションも特定の『ものづくり系』専門分野の教員や学生だけではなく、キャンパスにいる全ての学生が自由にアクセスし、いろいろな目的で自由に使ってほしいというメッセージを出すことにしました。そこでまとめた『ファブ』の定義が、“デジタルとフィジカルを自由に横断し、自在に結合する創造性”というものだったのです。3Dプリンタの操作法とかレーザーカッターの加工法とかはあくまで実務レベルの話で、より広い意味で『デジタルとフィジカルを横断する感覚』こそを、学生時代に得難い経験として培い、身体に染み込ませてもらいたいと思っているのです」
10月にファブキャンパス委員会を設置した時点で、4月の入学式ガイダンスで発表するという目標はおおむね決まっていたそうだが、機材を置く場所や管理法を検討し、機材設置のためのインフラ設備を整え、4月にはそれが実際に動き始めるというのは、すごいスピード感だ。委員会の議論はリアルな会議のみならず、メーリングリストやインターネットの掲示板サービス上で行われ、デジタルデータが大量に飛び交ったという。委員会の先生方に「ちゃんと整理してもっと多くの学生が使えるようにしたい」という共通の問題意識があり協力が得られたことや、新しい建物が建つというタイミングの良さもあって、無事に発表までこぎ着けることができた。