慶應義塾大学SFC ファブキャンパス委員会インタビュー
「キャンパスを将来のファブ社会の実験場に」——慶應義塾大学SFCが進める“ファブキャンパス”が目指すもの
学生が学び、作り、廃棄するまでを実験として考える
——ファブキャンパス委員会では、どのようなことが議論されたのでしょうか。
水野准教授「ファブキャンパスは実際に使える機材があって、学生にそれを使って何かを作ってもらうことを前提にしました。
例えば、初めてものを作る学生は、何をとっかかりにして勉強するか。どういう講義があり、どんな機材があって、どのソフトを使ってどういう形式のファイルを作ったらどの機材で出力できるのか、材料は何が必要なのか。もちろん、大前提として作る動機が必要です。
そして、うまくものが作れたとしても端材も出る。また、完成したものはどうするのか。端材は廃棄するわけですが、作られたものだって持ち帰ったり発表したりして、目的が果たされたらそれも廃棄されます。こういった一連のプロセスを考えると、建物の管理をする人たち、情報ネットワーク系の管理の人たち、教育プログラムを提供する先生方、技官の方々など、たくさんの利害関係者と共に、ファブキャンパスを実現するための見取り図を作らなければなりませんでした。
なお、現時点で廃棄に関する方針はペンディングです。理由の一つは学生が実際にどんなものを捨てるのか、不明瞭であるためです。単一素材のものなら簡単に廃棄できますが、複合素材になるとばらして捨てることになったとき、どの程度までばらせばいいのか。大学は商業的なファブ施設とは異なり、教育目的がメインなため、実験を許容できる空間であってほしいと思います。ファブキャンパスは廃棄も含めたものづくりの生態系の実験の場になっていて、サービスデザインはインクリメンタルに考えていこうとしています。
委員会の議論では、トップダウンでがちがちに決めたルールでやるのではなく、ある程度柔軟にやりながら決めていける部分を多く残しています。漸進的に改善していくにあたり、作った後の運営に関する議論が割と長かったですね」
ものづくりにおいては「作る」ということだけに注目しがちだが、作った後どうするかということは意外に難しい。作るための工作機械はお金があれば導入でき、ものを作るところまでは行けるが、作ってから先のことはお金では解決できず、自分たちで仕組みを設計して回していかなくてはならず、かなり努力が必要だという。ファブキャンパス委員会では、こうした廃棄に関するノウハウを作れれば新しい循環型モデルになるのではないかと考えているそうだ。これには、環境系(ランドスケープ)の先生から、合板などは海外から輸入するのではなくもっと身近のものを道具や素材として考えていいのではないかという意見や、情報系(コンピュータネットワーク)の先生から、未完成物や端材も含めて全てRFIDタグを付けて管理してはどうかといった意見が出ている。
将来に向けてスマートでクリーンな循環型のものづくりのシステムを作っていこうというビジョンのもと、「各先生方の得意分野を持ち寄って、創造性を発揮できる教育のシステムを考えていくという大きな話」(水野准教授)が真剣に議論されているのだ。