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慶應義塾大学SFC ファブキャンパス委員会インタビュー

「キャンパスを将来のファブ社会の実験場に」——慶應義塾大学SFCが進める“ファブキャンパス”が目指すもの

誰でも使えるようにすると何が起こるのか

——ものづくりやデザインを研究されていない方も学内にいらっしゃるわけですが、ファブやファブリケーションについて、そういった先生方とファブキャンパス委員会以前にも議論されていたのでしょうか。

高汐准教授「田中(浩也)さんの尽力で、みんなが目にするメディアセンターのあの場所にファブスペースができたことが大きかった。学内に知らない人はいないですよね。僕は授業でいつも『大多数の人にとって100%自分仕様のものが作れるのは大学にいる間だけだよ』と言っています。とにかく作りなさいというメッセージは学生もすごく意識していると思います。そういう下地はありました。ゼロから始めたわけではありません。ですから“ラボ”ではなく、“ビルディング”でもなく、“キャンパス”というキーワードでやった方がいいねと」

慶應義塾大学SFCには環境情報学部のほか、総合政策学部、看護医療学部がある。看護医療学部の授業では、2015年に3Dプリンタを使う学部1年生向け授業がはじまり、そこから「看護×FAB」の研究プロジェクトも生まれた。総合政策学部の先生もファブキャンパス委員会には参加していて、法や社会制度の議論に加わっている。3つの学部を巻き込みつつ、ファブキャンパスは進んでいるのだ。柔軟なルールの上で、細かいことは進めながら考える、そうしたやり方が可能なのは、慶應義塾大学SFCが、何もない場所に教員や職員が協力して作り上げた(1990年創立)という、一種のフロンティア精神のような、関係者に共通するカルチャーが影響しているという。

——慶應義塾大学SFCは、学生に無線インターネットを開放したのも日本で一番早かったですね。

高汐准教授「まずとにかく使わせてみる。使った上で何が起こるのかというところからファブキャンパスは動き始めました。Wi-Fiをパスワードなしで開放していたころのノリに近いですね。いい意味で“やっちゃえ感”を持っています」

高汐准教授の専門分野はユビキタスコンピューティングやヒューマンロボットインタラクション。ロボットがモノやサービスと情報をやりとりすることによって、人にとって快適なインタラクションを実現する「ソーシャブルロボット」を研究している。研究室ではハードウェアを作る機会も多く、電子工作系の設備を備えた「電子工作アトリエ」や、ロボットの制御実験ができる「ロボットアトリエ」で多くの授業を行う予定。 高汐准教授の専門分野はユビキタスコンピューティングやヒューマンロボットインタラクション。ロボットがモノやサービスと情報をやりとりすることによって、人にとって快適なインタラクションを実現する「ソーシャブルロボット」を研究している。研究室ではハードウェアを作る機会も多く、電子工作系の設備を備えた「電子工作アトリエ」や、ロボットの制御実験ができる「ロボットアトリエ」で多くの授業を行う予定。

誰でも使えるようにするとはいえ、ただ機材を用意すればよいということでは済まない。ファブキャンパスでは、機材以外に利用の手引きとなる資料やサービスも提供している。資料は、田中教授が座長として率いた総務省の『「ファブ社会」の展望に関する検討会』と「ファブ社会の基盤設計に関する検討会」でまとめられた、「ファブ社会に向けての法・社会制度に関する手引き」と、水野研究室の学生がまとめた「ファブ キャンパス ガイドブック 2016年度 春学期版」をWebで公開している。この2つの資料はどちらもクリエイティブ・コモンズ・ライセンスのもとで公開されており、一般的なファブ施設でも役立つ内容になっている。さらにユーザーをサポートするインフラサービスとして、ものづくり制作日記共有システム「Fabble」、インターネットにある3Dプリント用STLデータの検索エンジン「Fab3D」、さまざまなメーカーのレーザーカッターや切削機を全て扱うことを目指すレーザーカッター/切削用汎用CAM「FabCam」がある。

金属加工工房(DFF-M:Digital Fabrication Factory – Metal。旧ものづくり工房)は、フライス盤、プレス加工機、旋盤、溶接機など、主に金属加工用の機材が集められた施設。 金属加工工房(DFF-M:Digital Fabrication Factory – Metal。旧ものづくり工房)は、フライス盤、プレス加工機、旋盤、溶接機など、主に金属加工用の機材が集められた施設。

また、デジタル工作機といってもある程度危険度が高く、ライセンスが必要なロボットアームのようなものから、大きな音や粉じんを出す切削機、危険度は低く扱いの簡単な3Dプリンタやデジタルミシンなど幅がある。これらは、運営しやすさなどを考慮して、金属加工工房(DFF-M)、木材加工工房(DFF-W)、ロボットアトリエ/ファブスタジオ、電子工作アトリエ、コンピュータルーム(3Dモデリングソフトウェアをインストールしたコンピュータが利用できる)、ファブスペースなど、作業内容別/目的別に再整理され、キャンパス内の各所に適度に分散されることになった。それぞれの運営方法は異なるが横の連携をはかっていくという。

永良さんたちの労作「ファブキャンパスガイドブック 2016年度 春学期版」。学内の施設案内に留まらず、材料や工具を購入できる近隣の商業施設や、緊急時の連絡先(病院など)も記載。ソフトウェア、施設、素材の選び方、ゴミの処分方法、作品の公開の仕方なども紹介されている。一般のファブ施設でも参考になる内容で、広く活用してほしいとの考えからクリエイティブ・コモンズ・ライセンスでの公開となっている。 永良さんたちの労作「ファブキャンパスガイドブック 2016年度 春学期版」。学内の施設案内に留まらず、材料や工具を購入できる近隣の商業施設や、緊急時の連絡先(病院など)も記載。ソフトウェア、施設、素材の選び方、ゴミの処分方法、作品の公開の仕方なども紹介されている。一般のファブ施設でも参考になる内容で、広く活用してほしいとの考えからクリエイティブ・コモンズ・ライセンスでの公開となっている。

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