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GROOVE X 林要ロングインタビュー

Pepperが教えてくれた、僕たちに必要なロボットとは

その代表例が「ドラえもん」だと思っています。
ドラえもんは4次元ポケットがあるからスーパーロボットですが、4次元ポケットを外してしまったら、どら焼き好きな、落ちこぼれロボットという設定です。でも、その「ポンコツ」が、実は4次元ポケットよりものび太君の成長に貢献しています。

なぜなら、4次元ポケットからでる便利な道具は、どれ一つとしてのび太君を幸せにしたことがないからです。いつも困って、「ドラえもん、何か出して」と言って便利な道具を出してもらい、それらは確かに便利なのに、なぜかいつも最後はひどいユーザー体験で終わる。「ボクの考える、便利で夢をかなえてくれる道具」が必ずしも「ボクの考える未来」をかなえてはくれないのです。

それに対して、不良品扱いされているドラえもんがのび太くんの元を去る時、のび太君は初めて成長のきっかけを得たことになっています。このことを考えると、これまでの歴史の中心にあった「人の代わりに仕事をして、結果として人に時間やお金の余裕を生むための機械、およびその延長としてのロボット」だけではなく、自分の自己実現を助けるための、人が思い入れるロボットも必要なんじゃないかと思って、今はそういったロボットを開発しています。

さまざまなシーン、場所で目にする機会の多いPepperは日本のパーソナルロボットの歴史に名を残すことだろう(撮影:越智岳人) さまざまなシーン、場所で目にする機会の多いPepperは日本のパーソナルロボットの歴史に名を残すことだろう(撮影:越智岳人)

——それはまさに林さんが開発されたPepperを彷彿とさせますが、Pepperはそういった自己表現の重要性に気付いたからこそできたものなのでしょうか

孫さん(孫正義氏)は最初から気づかれていたのかもしれませんが、私は開発している最中に気づきました。当初は孫さんが「ロボットをやりたい」と言っても、(私は)ロボットに関しては素人だったので「よく分からないけど、誰もやってないし面白そう」ぐらいの感覚でした。でも、いろんなロボットを見てみると、ロボットで人の心が想像以上に動く瞬間があると分かるんです。

例えば、南フランスのとある場所に、会話はあまりしないけど、人がハグすると喜ぶ特別仕様のPepperを持って行ったときのことです。
あの時は地元に住んでいる子どもがハグをしに毎日Pepperのもとに来てくれました。ほとんど会話はしないけど、ハグをするとPepperが喜ぶから毎日来る。ちょっと理解しがたいかもしれないけど、スキンシップを通して、原始的に人間に染みついた「会う」という体験の重要性をロボットが呼び起こしているかのように私には見えました。

電話やテレカンファレンスで話すよりも実際に会ったほうがいいよね、という感覚は、テレカンファレンスでは伝わらない何かを実際に会う事で感じるからですよね。その「何か」を突き詰めることが、人が思い入れるロボットとしての価値を追い求める上で大事なんじゃないかと思います。

二次元の世界でディズニーやドラえもんのような作品が構築してきた世界観を現実のロボットで実現しようとすると、ものすごくハイテクで高度なクリエイティビティも必要になるけど、そこに極めて面白い平野と新しさが広がっていると思ったんです。

当然ながら時間と余裕を生むために役務をするロボットは今後も人類の発展にとってはマストですが、結果として生み出される余裕時間や余裕資金の受け口となる領域としての、人が思い入れるロボットは十分に開発されていなかった。でもPepperを出せたおかげで、皆さんにその可能性を垣間見ていただくことができたと思っています。

僕らが作ろうとしているのはPepperのようにキュートさがありながら、Pepperとは違うアプローチをするために、さらに高度な技術を盛り込んだものになります。例えばガンダムのハロやスター・ウォーズのBB-8のような世界観です。それらを機能的に分解していくと高度な人工知能が必要になってくる。ものすごくかわいい、もしくはそばにいて安心できる存在を実現させるということは、自然で安全に動かせる高度なテクノロジーが必要になってくる。なので、僕らは今、ありとあらゆる産業の先端技術を持つ企業と一緒に開発を進めさせていただいています。

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