新しいものづくりがわかるメディア

RSS


GROOVE X 林要ロングインタビュー

Pepperが教えてくれた、僕たちに必要なロボットとは

——それは多くの企業から技術提供を受けながら開発しているということでしょうか。多くの企業の技術をミックスさせて開発するというのは、それはそれで非常に難しいことのようにも思えますが

いまのところ、今年エンジニアリングサンプルがようやく出てきたような部品を組み合わせることで、ギリギリ全て成立する感じですね。結果、面白いように進んでいます。なぜ進むかというと、技術をもった企業が協力してくれるからなんです。

日本でイノベーションが最終製品に起きないような雰囲気をなんとなく感じていた間も、技術力のある会社は決して何もしていなかったわけじゃなくて、その間もひたすら要素技術を磨き上げてきてる会社がたくさんあるんです。

ものすごい勢いでずっと要素技術を積み上げていて、ただそれをうまくイノベーティブな最終製品としては商品化できなくて、要素技術としてタコツボ化している技術がたくさんある。ただ、その積み上がった要素技術って、うまく束ねるとすごいんですよ。

そのような要素技術の出口がなくて困っている大企業もあれば、ものすごく職人気質の、もはや何に使ってよいか分からないようなすごい技術を持つ下町の工場みたいなところもある。共通しているのは、ただ、とがり過ぎていて単独では使えないという部分です。

私たちが「作っているロボットはこういうもので、新たな産業として起こしていきたい。技術的にはここが足りないけど市場にはそれが無い。だからこういう技術が欲しい」という話をすると、話を聞いた企業が「それならうちにあるよ、使い道が無くて困ってたけど」といって、さまざまな要素技術を持ち寄って解決してくれるという状況が起きています。新しい産業だと、今まで使えなかった技術が使えたりするんですね。

林さんいわく、タコツボ化した各社の要素技術(グレーの丸)をつなぎ合わせて一つの製品に仕上げるのがベンチャー(水色の大きな丸)の役割だという(図作成:編集部) 林さんいわく、タコツボ化した各社の要素技術(グレーの丸)をつなぎ合わせて一つの製品に仕上げるのがベンチャー(水色の大きな丸)の役割だという(図作成:編集部)

——単体の技術では起こせなかったイノベーションが、混ざり合うことで実現できるということですか

要素技術はお金がかかりますから、その投資回収のめどが立たない限り、基本的には門外には出せないわけです。
虎の子として「いつか化けるかも」と思って大事に中で持っているんだけど、何年かけても出ないものがたくさんある。そうして「中でこねくりまわしていても、新しい商品として立ち上がらない」って、察しはじめたのが最近の気がします。

弊社みたいな小企業の末端みたいな会社と、一部上場企業で誰でも名前を知ってるような会社が何社も一緒に仕事をしていただいているのは、そういう意味で時流的にちょうど良いタイミングだったからではないか、と思っています。

あらゆる企業が「イノベーションってどうやって起こすんだ」って20年くらい頑張ってきて、ようやく内部だけではどうにもならないという半ば諦観の境地に達して、いよいよ外に新しい道を模索されはじめていて、そういうときに、切り込み隊長みたいなベンチャーが「僕ら切り込んでくるんで、ご協力お願いします」というと、「じゃあ、手伝おうじゃないか。どうせ俺たちだけでもうまくいかないんだし」といって協力いただく図式が成立しやすくなった、そんな時代背景があるんじゃないかなと思います。

トヨタやソフトバンクにいて分かったのは、大企業とは極めてボトムアップのイノベーションに不向きな体制であるということでした。これはトヨタやソフトバンクに限った話ではなく、大企業=不向きなんだと思います。

会社が小さいうちは自由にチャレンジできる体制を維持できます。だけど、ある段階で成功して成長しはじめると、いままで「あ・うん」の呼吸で仕事ができていた仲間に、呼吸が合わない人も当然入ってきて、しかしそれでもちゃんと事業を回して収益を出していかなきゃいけなくなります。

そのためにはどうしても組織化して、仕組み化して、誰が入ってきてもそれなりに回るようにしなきゃいけない。そうして属人性が薄まり、事業は安定し、順調にシェアを伸ばせるようになります。しかしある段階で市場を食いつぶし、拡大が緩やかになるわけです。それはいつか、必ずやってくる。

その時に何をするかというと、それでも今までと同じ成長を目指して、収益を増やしていかなきゃいけないという圧力から、必要以上の効率化が始まる。必要以上の効率化が始まっていくと、収益性が確実なもの以外を切り捨て、先行きが不透明な挑戦を切り詰めるので、実はどんどんイノベーションと逆方向に振れ出す。結果として、イノベーションがすごくやりにくい体制が構築されます。このように、大きな企業にはものすごい量の資本が集中するので、それが暴発しないような仕組を作らざるを得ない結果として、軍隊と同じような制度になってしまう。オペレーションのプロになっていくわけですね。

その(大企業の組織の)中で、ボトムアップでイノベーションを起こすって、本業に対して反乱を起こすようなものですよ。
本業で「待て……待て……いまだ、一斉に撃て」とやってるときに、全然違う方向から「ひらめいたんで、竹槍で攻めてみました!」っていうのが、ボトムアップのイノベーションなわけです。「いやいや、本隊のタイミング見ろよ、全体戦略見ろよ、勝手に攻めるなよ、お前、効率悪いだろ」という話なわけです。

そういう意味で、大企業での新規事業は不可能じゃないけど、本隊の収益を使って予算をつけてもらって攻めるので、往々にして「こうやって攻めてみたいんです」という承認を取る必要などがあって、その時点でたいへん高コストになります。ベンチャーで勝手にやる方が圧倒的に低コストで動きも速いわけです。

僕らGROOVE Xがやっているような事業は大会社の役員の方々でさえも、「それは面白い」と言ってくださる。「これは、次世代産業になるかもしれない」と。しかし同時に皆さんが口をそろえて言うのは、「でもこの企画、弊社では絶対にできない。稟議が通る気がしない」。それは私もすごくよく分かります。「絶対通らないですよね、分かります」と。会社って“そういうもの”だから通せないですよね、と思う訳です。

実は日本の産業が今はあまり盛り上がっていない最大の理由は、そこにあるんじゃないかなとも思うんです。例えば戦後の高度成長期の、特に前半って、いわば1億総ベンチャーだったんじゃないかと思うんです。1億総ベンチャーの中で、大事なのは生き残ることだった。生き残りさえすれば何でもやって良かった時代は、いわばベンチャー志向の人たちにとって、最高のイノベーション教育の場だったはずです。

それが、高度成長期が終わりかけると、どうしても、最後のラストワンマイル、無駄なあがきをするために必要以上の効率化をしはじめるわけです。
コスト削減をしやすい範囲を集中的に効率化すると、結果的に失敗しないようにやり出します。その瞬間に、トライアルができなくなる。失われた20年の正体は、「失敗をしちゃいけないんだよ」って教えられた僕らが、その教育の賜物として「目の前の失敗」だけはしないようにしてきた20年なのかもしれません。

そういうわけで、リスクを避けてトライアルをしない習慣を持った僕らが、今更失敗を恐れずにトライアルしなきゃ、と思っても、実際のリスク以上に失敗を怖く感じて、結果的にトライアルするのが難しい体質になっているんじゃないか、そんな風に感じています。

それは、アメリカのような、祖先をたどれば誰かが自国を出て新天地でのチャレンジを選択してきた、というマインドセットを持った移民で、そういう「生き残るのが精一杯」だった経験を持った人たちのチャレンジ精神に比べると日本人はどうやっても不利で、それゆえに自然な感情に任せているとトライアルできないわけです。しかし結果としてぬるま湯に浸かったままでは、ゆでガエルになってしまう。そこを切り崩せるようになるためには、人生をかけたチャレンジを恐れないベンチャーが必要だと思うし、そのベンチャーの成功例がないといけない。100社あっても1社しか成功しないかもしれないけど、それでもピカピカの1社がいくつか出てきたら、みんなもうちょっと「やってみようかな」という気になるわけじゃないですか。

 

大企業の中で新しいロボット分野の重要性を見出した林さんだったが、一方でイノベーティブなものを生み出すためには大企業の中ではなく、あらゆる企業の中に眠る要素技術を集結させることが必要不可欠だと悟り、GROOVE Xを起業した。

後編ではそんな林さんがどのようにして大企業の協力をとりまとめたのか、また日本におけるハードウェアスタートアップの環境や、イノベーションを生み出せるエンジニアに必要な要素について伺っていく。

 

後編はこちらから

関連情報

おすすめ記事

 

コメント

ニュース

編集部のおすすめ

連載・シリーズ

注目のキーワード

もっと見る