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GROOVE X 林要ロングインタビュー

ギリギリを見極め実現するのがスタートアップ——林要が語る起業家の責任

——どういったルートで採用されているんですか?

今は主に人づてですね。オフィスがあるDMM.makeは面白い場所で、「ねぇ、こういうことに困ってるんだけど」ってその辺にいる人に相談すると、「ああ、あの人できるかも、ちょっと聞いてみるよ」って人脈がつながるわけです。
だから、困ったときに散歩して、知り合い3人に声を掛ければ、さらに3人の知り合いにつながって、そのうちの誰かができる人だったりするんです。

そういう人たちに短期的に手伝ってもらうようなことを繰り返していくと、「人生懸けてみたい」と思ってくれる方が出てきて、そういう方々が社員になったり、アウトソースなのに他の仕事を断って、フルタイムでコミットしてくれたりするんです。

——ハードウェアスタートアップで必要な人材とはどんな人だと思いますか?

問題を見つけ、解決する能力というのは極めて重要です。解決するためなら社長だって使っていいし、隣に座ってる人でも親でもいい、とにかく「解決したい、やりきりたい」という欲求があるって、大事なことだと思います。さらに量産の流れをなんとなく押さえている人であれば、非常に強いですね。

スタートアップという組織においては、量産の経験者はメンバーにいた方が理想的には望ましいでしょうね。大手企業が立ち上げられないものを、代わりに立ち上げるのがスタートアップの役割かなと思うので、要素技術だけでなく前工程と後工程もなんとなく見渡せて周辺技術も分かるといった広い相場観が求められると思います。

設計であれば、ものを見た時に型の抜き方向や歩留まり、品質の安定性といった視点が持てるかは最低限必要でしょう。でも必要な経験はその程度+自分の得意分野の範囲であって、あとは周りの人に助けてもらいながら、経験を積んでいけば大丈夫だと思います。心配なことがあれば誰かに聞いて解決すればいい。しかしそれに対して最初から「これ、できないと思います」とか「難しいと思います」と答えているような保守的な人は、責任感は強くとも不安への耐性が弱いので、あまり向いていない気がします。

結局、ハードウェアスタートアップにとって大事なものって、無限にある「できたらいいな」の中から、どれが本当にできるのかを見抜く目だと思うんですよね。

いかにも「できなさそう」なのに、うまくやったら「できる」ものを見つけた人が勝つわけじゃないですか。GoProなんてそんな感じで、今までにない新しいものだけど、手ぶれ補正が入っているわけでもなく、技術的には比較的作りやすいものを作っているわけですよね。しかし広角レンズを採用して事実上は手ぶれが気にならない、まさに「うまくやったらできるもの」を見つけた。このように、どうして皆がやってこないのに、自分はそれができるのか、そこを見極めて商品企画するのが本来のあるべき姿かなと思うんです。Tesla MotorsもSpaceXも超無謀な闘いをしているように見えながら、実は「ギリギリできるよね」というところをちゃんと狙っているわけです。

ハードウェアスタートアップっていうのは、もの(完成品)にしなきゃ意味がない。その割にハードウェアスタートアップの創業者の人たちというのは、意外にエンジニア出身じゃなくて、「こういうものがあったらいいな」っていうだけで走り出しちゃうケースがある。それは、夢としてはいいかもしれないけど、イーロン・マスクであってもTesla MotorsとかSpaceXをやるまで、相当研究して、本当これいけるよねっていうところを見極めている。その見極めをしっかりやるのが、ハードウェアスタートアップの創業者の仕事であって、できないものを根性で、できるぞっていうものではないと思っています。ここが営業色の強い会社との大きな違いではないでしょうか。

とはいえ、経験が少ないと「その実現可能性をどうやって調べればいいの、分からないじゃん」ということも多いと思うんです。そういうときに複数の量産の経験のある人たちに相談に乗ってもらえるといいですよね。
メーカー経験3年以上のモノづくり経験のある人たちの助言が得られるような環境に居続けることは、とても大事です。

そういう意味で、企業から飛び出してスタートアップ界隈をウロウロしてくれるようなものづくり経験が豊富なエンジニアが、それなりに市場に放出される必要があるので、やっぱり人材の流動化が大事だと思います。30年後にはそんな人材はありふれている世の中になっているだろうけど、今はまだ少ない。だから今、ハードウェアのフリーランスが引っ張りだこなんです。でも、フリーランスの人たちがみんな、最初からすごかったかといわれれば、実はそんなことない。皆さん、スタートアップ界隈をうろうろしながら学んでいるんです。ただ彼らに共通するのは、自分が解決できる技術を持っているかどうかというよりも、人に頼ってでも何とかする問題解決能力があることです。

でもそんな風に経験が新たな経験を呼ぶ無敵なサイクルに入るフリーランスにも、環境上の欠点があります。フリーランスの場合は、自分の身を守るために、どこからどこまでが自分の領域か決める必要があります。しかし、そもそもプロとして育っていくためには、その垣根なく、どこまでもやっていくという思いを持つことが重要で、そこはフリーランスでは体験が難しい領域とも言えます。そういう意味ではベンチャーの方が無理やり自分の能力をストレッチされるので、結果的に伸びしろがある。だから自分の能力を本当に伸ばそうとしていて、さらに問題解決に向けたパッションのあるエンジニアと、情熱はもちろん、同時に実現性を見極められる創業者の2つの人材がちゃんとマッチングすれば、ハードウェアスタートアップはうまくいく確率がかなり上がるでしょうね。十分に機能すると思います。

日本はそもそも良い町工場もいっぱいあるので、ものが作りやすい環境というのもよい点です。これをニューヨークでやれと言われたって、さっぱりやれる気がしない。ドイツの都市部やパリ、深センはできるかもしれないが、それに並んで日本はものづくりがしやすい国の1つなんだから、日本に生まれたならやらないと損だよね、なんて思っています。

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