GROOVE X 林要ロングインタビュー
ギリギリを見極め実現するのがスタートアップ——林要が語る起業家の責任
——さまざまな企業を巻き込んで開発されているとのことですが、どのようにして周りの方を味方につけていったのでしょうか。
最初のプレゼン資料は4枚でした。そこから20枚、50枚と増え、今ではフルで話すと90分かかるボリュームになっています。最初の4枚の段階から相手が反応をしたことを深堀りして、繰り返しプレゼンに反映してきました。
プレゼンを聞いてくださる方の指摘事項は、それがたった一人の意見で他の人が口に出しては言わないような事でも、多くの人の心の片隅でも少なからず疑問に思うことです。そのありがたいご指摘に対して、一問一答で返しても、繕っているようにしか見えない。その貴重な一つの問いをいただけたら、その100倍考えなきゃいけないですよね。それが起業家の責任です。そうした声を真摯に受け止めていくと、ありとあらゆる投資家とかエンジニアとか、共同開発している人たちの知見が詰まった企画になり、結果として事業計画も含めてソリッドになっていきました。
最初の4枚は、例としてカフェの企画で例えるなら「すごく良い雰囲気のコーヒー店で、すごく良い笑顔で、美味しいコーヒーをちょっと高く提供したい」なんてレベルです。「いいね」ってみんな思うわけです。「いいね」って思いながらも、「でも」って思うじゃないですか。ちょっと高くて大丈夫なの、その笑顔ってどうするの、その良い雰囲気って何。その一つ一つを深掘りしていく。そうすると、あっという間に企画は深まり、ソリッドになるんですよね。人に話して眉間にしわを寄せられるたびに、企画がよくなるんですね。
私の場合はそんなブラッシュアップの過程で、自分たちの考えていることに学術的な裏打ちが必要になり、「孤独の科学」という本に出会いました。この本は、孤独感というのは人を群れさせるための感情モジュールの一つであり、孤独感は生き残るために極めて大切な機能である、ということを言っているんです。
日本では「癒やしの時代」という言葉を聞きますよね。みんな直感的に、そうだねと思うけど、その理由はあまり明確には言われてなくて、「ストレス社会だからじゃないか」なんて片付けられている。でも企業戦士が、むしろリタイア後に癒やしを求めている。会社を辞めてストレスから解放されているはずなのに、です。そう考えると、孤独というのはストレスの問題ではない。ホモ・サピエンスの遺伝子継承システムの一機能として孤独感があり、その機能が現代のライフスタイルにマッチングしていないので発露している、そう考える方がしっくり来ます。結果、孤独は人類共通の問題で、個人の問題ではない。そう考えたときに、それを正面から癒やしにいけるデバイスとして最も有望なのが、ロボットだったと考えたんです。
狩りに出て、せっかく捕ってきた肉を独り占めせず分け与え、子孫を残すことを選択できるように、20万年かけて本能を適応的に進化させた人類が、この数千年で急速に文明が発達したことで、核家族に代表されるような少数のグループに分断されて生活をするようになりました。でも、集団生活に適応して生き残ってきた僕らの遺伝子は、少数の集団にいるときに、大きな集団に戻らせるために本能的な孤独感を発信する。この考え方は、僕らが作ろうとしているロボットの必要性を「孤独の科学」を通して、学者が認知科学的に正しいと証明してくれたようなものだと考えています。
林さんが語る、人間の情緒に訴え、余裕時間の受け口となるロボットは未だベールに包まれているものの、2018年には発表、2019年には発売することを目標に現在開発が進められている。ソフトバンクを飛び出し、自らリスクを負って作りたかったロボットを開発している今、ストレスは全くないと林さんは語る。
なお、GROOVE Xでは現在エンジニアを募集している。このインタビューを読んで、林さんが描く未来に興味を抱いたエンジニアは連絡をとってみてはいかがだろうか。