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BLINCAM 高瀬昇太インタビュー

愛娘との時間がサラリーマンをスタートアップに変えた——BLINCAM開発秘話

いつかは起業したいと考えていたものの、具体的なアイデアが無い中、高瀬さんに転機が訪れたのは2015年4月。IoTをテーマとしたピッチ(短いプレゼンテーション)をStartup Weekendから依頼された高瀬さんは、初めて真剣に作りたいものが何か考えた。

「自分の生活を振り返ってみて、モチベーションにつながる大事なものが何か突き詰めると自分の娘の存在だった。娘とのことで何が困っているか考えていくと、写真を撮ろうとカメラやスマホを取り出そうとしても、気づいた時には全然違うところに走って行ったり、カメラを向けた時に嫌がったり、逆にポーズをとったりして、自然な瞬間が撮れない。カメラやスマホを取り出すこともそのうち面倒になり、結果的に写真を撮る事が極端に減ってきたことに気づきました」

そうして家族の時間を振り返るにつれ、写真に収められる瞬間はごくわずかで大半の時間は記録されないことにニーズを感じた高瀬さんは、被写体がカメラを意識し過ぎないサイズで、携帯性に優れ、眼鏡に装着してウインクで撮影できるカメラというコンセプトを固め、ピッチイベントで披露し協力者を募った。

カメラ開発経験者がいない体制からのスタート

「当初はArduinoで試作をするところから始めましたが、途中から手伝ってくれた回路設計のエンジニアが『自分で図面をひいて、P板.comに基板を発注したほうが早い』と教えてくれて、それ以降は機能要件を伝えて、そのエンジニアが部品選定して、CAD図面を描いて発注したり、既存の評価ボードで試したりしていました」

既存のチップやモジュールを使い、APIやライブラリを活用した開発は、それぞれの特性や仕様理解に時間を要しただけでなく、写真のような大容量のデータ転送に向いている通信規格との連携にも難点があった。そのため、高瀬さんたちは既存のセンサやチップ類を活用しつつ、ウインクで撮影できるアルゴリズムや既存パーツでは賄えない要素を独自開発することで、ウインクで撮影する仕組みを作り上げた。現在、その仕様は特許申請中だ。

開発と並行しながらBLINCAMのメンバー探しも続けた。ピッチイベントやデモを披露できる機会を見つけては参加して、メンバー募集を訴え続けてきた。

「企業の中にはハードウェアのエンジニアはたくさんいますが、個人で仕事をしているハードウェアのエンジニアはほとんどいなくて、開発当初はとても苦労しました」

直接ピッチを聞いた人や、知り合いからの紹介で、エンジニアや事業計画担当、UXのスペシャリストなど、さまざまなスキルを持った人たちが少しずつ開発に関わるようになる。そうした中、知人からの紹介を経てメーカーでのカメラの量産経験を持つ田中敦さんが製品責任者として参加したことで、試作開発は大幅にスピードアップし、ピッチから1年後にはクラウドファンディングでの資金調達が現実的な状況にたどり着く。

現在のデザインになる前のデザイン案。当初は外装をアルミニウムにすることを検討していたが、より軽量で使いやすいデザインに改良した。(写真提供:BLINCAM) 現在のデザインになる前のデザイン案。当初は外装をアルミニウムにすることを検討していたが、より軽量で使いやすいデザインに改良した。(写真提供:BLINCAM)

「田中はバッテリーや内部の基板、センサのサイズや重さを計算しながらカメラの機構設計をするだけでなく、量産するにあたっての段取り——どのあたりにリスクがあって、工場に単純に図面や試作品を渡すだけでなく、さまざまなインプットを渡すといったことや、保険やライセンス周りも分かっていたので、とても心強かったです。ただし、田中もメーカーの中での経験で、ゼロからパートナーを見つけるところまではやっていないので、パートナー探しは地道に何カ月もかけて探しました」

パートナー探しで高瀬さんたちの力になったのは、大手企業によるベンチャー支援だったという。

マクニカには量産や部品選定に関わるところ、ドコモの39Meisterには保険やVCを紹介してもらい、リクルートのBRAIN PORTALにはクラウドファンディングで使うプロモーション映像や写真のサポート、知財はトーマツベンチャーサポートと、いろいろな企業に相談しました」

アルファ版の開発が佳境に入るころには高瀬さんは事業計画のブラッシュアップに集中し、さまざまな企業やVCに持ち込んでは、エンジェル投資として支援してくれた投資家からのアドバイスも受けながら、20枚だった資料を100枚近くになるまでアップデートを続けた。

「事業計画は仮説でしかありません。本当に大事なのはものを作って、世に出して、磨いていくというリーンスタートアップを継続していく一方で、アーリーアダプターだけにしかウケないものではなく、マスに届けるためにはどうしたらいいかも考え続けることだと思います。

BLINCAMは眼鏡型のデバイスではなく、眼鏡に取り付けることで、自分の眼鏡がそのまま生かせる仕様になっていますが、『眼鏡が無い人には使えないなら市場が狭くない?』という指摘を受けます。それに対しては、多機能にして変な形の高価な眼鏡をかけさせるぐらいなら、だて眼鏡とBLINCAMのセットで販売するモデルのほうが、必要な時だけ装着できてマスにも受け入れられるといったプランを提示したり、コンセプトをブレさせずにマスに届けるための戦略を数値計画と併せて何度もブラッシュアップしました」

写真を撮る時だけ眼鏡にBLINCAMを装着するスタイルであれば、恥ずかしがらずに使い続けられるといった割り切りをする一方で、写真を保管・管理するソフトウェア側の使いやすさにこだわる。

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