大人の科学マガジン ふろく開発者インタビュー
大人の科学マガジン最新号ふろく「カエデドローン」開発秘話——最難関教材に挑んだ2人の匠
異なるアイデアが商品化への道を照らした。
一連の大人の科学マガジンのふろく開発には陰の立役者がいる。永岡昌光氏は、ファブリケーターとして、創刊時からふろくの開発、量産試作等に関わってきた。全ふろくの70%以上に関わっている。2014年には第一線を退き、事実上引退の形となっていた。匠の技が必要だった。
「『復帰して、本格的に開発に加わってほしい』と編集部からの依頼を受けたのが7月の後半でしょうか。『確かに世の中にない面白いモノだ』とは思いました。同時に難しいとも感じました。
そこで発想を変えて、機体を傾けることだけに集中しました。あるとき、『バッテリーを積んでいたカーボンロッドの先に、モーターとプロペラを付けたらどうか?』という考えが浮かびました。機体の総重量は増える方向ですから、正直ちょっと強引かとも思いました。ところが、やって見ると意外に効果がありました。『この線で追っていけば可能性があるかもしれない』。方向性が見えてきました」
これが突破口となった。その効果に小美濃氏も絶賛。高速でプロペラを回転させる推力用のメインモーターと低速でトルク優先の舵用モーターのペア。後者には、重すぎず、それでいてトルクがあるモーターを片っ端から取り寄せ、試作機に載せて飛ばしてみた。ようやくめどがつき、部材の手配がついたのが9月。年内発売に向け、まさに背水の陣での出来事だった。
ふろくのユーザーカスタマイズ
量産試作の過程で、創刊時から大人の科学マガジンに携わる永岡氏ならでは、の別のアイデアも生まれた。
「『誰にでもできる』ようにはなっていますが、ユーザーがカスタマイズできる余地を残すことが大人の科学流だと思っています。そこで、上昇するときのスピードを微妙にコントロールできるアジャスト装置を付けてみたらどうかと思いました。プログラムを変えるデジタルなものではなく、もっとアナログな方法です。メインモーターの位置を、ねじを調整することで変えられるようにしました。モーター位置が変わると、つばさの仰角が変わるので上昇するスピードが変わります。スピードがゆっくりの方が機体は上がりやすく安定します。慣れてきたら、アジャストを変えて上昇スピードを上げてもいい。習熟の度合いによるカスタマイズができるようにしました。楽しんでもらえるのではないかと思っています」
時には飽くなきこだわりが製品の質を上げ、時には新しい発想が量産へ道を開く。ものづくりの英知が結集して、初めて世になかった新製品が生まれる。実用的な用途があるものでは決してないが、飛行原理を学べると同時に、匠の魂に触れるものになっている。編集部がふろくを教材と呼ぶゆえんがここにあるのだろう。楽しい製品がまたひとつ、大人の科学マガジンのラインアップに追加された。