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Rhizomatiks Researchインタビュー

テクノロジーを駆使して新たな表現を生み出すRhizomatiks Researchのエンジニアチームが明かす舞台裏

独自の制作環境/研究開発によって導き出されたメディアアートやテクノロジー演出を世に送り出すクリエイター集団、Rhizomatiks。その中でも研究開発をベースに新たな表現を生み出している部門がRhizomatiks Research(以下ライゾマリサーチ)だ。

数々の作品の中で知られたものでは、2014年のNHK紅白歌合戦でのテクノポップユニットPerfumeのライヴにて制御されたドローンを飛ばしたテクノロジー演出や、2016年にはアイスランドのシンガーBjörkによるライヴパフォーマンスの360度VR映像のリアルタイムストリーミング配信を手がけ、その今までにないパフォーマンスに観衆は沸いた。

彼らはジャンルを問わず数多くのクリエイターとコラボレーションを行い、メディアアート作品から企業の広告案件まで幅広い分野で活躍。ドローンやVR/ARなどハードウェアとソフトウェアの両面からさまざまな先鋭的な技術を盛り込んだアプローチは、これまでに国内外のアワードで数多く受賞し、2016年に創立10周年を迎えた。

ライゾマリサーチの作品における思想や背景は、代表の真鍋大度などによって語られてきたが、制作面に触れられたことは数少ない。そこでライゾマリサーチ所属のハードウェアエンジニアたちに、普段語られることのない制作面を聞くことを思い立った。

「border」、「Dimensions」、「Oscillation」をそれぞれ担当エンジニアとライゾマリサーチディレクターの石橋素が解説。与えられた機材やコンセプトから作品にしていく独自のものづくりの裏側を伺った。(聞き手:越智岳人、髙岡謙太郎、文・構成:髙岡謙太郎、撮影:荻原楽太郎)

左から西本桃子、原田克彦、坂本洋一。ライゾマティクスの一部門で、技術と表現の新しい可能性を探求するライゾマティクスリサーチのハードウェア担当。 左から西本桃子、原田克彦、坂本洋一。ライゾマティクスの一部門で、技術と表現の新しい可能性を探求するライゾマティクスリサーチのハードウェア担当。

ダンスパフォーマンスに加味された自在に動くステージモビール演出「border」

会期:
2015年12月4日~6日 会場:東京スパイラルホール
2016年2月27日~28日 会場:山口情報芸術センター[YCAM]

https://research.rhizomatiks.com/s/works/border/

現実と仮想を行き来する、ダンスパフォーマンス。ステージ上でダンサー5人がパフォーマンスする中、同じ空間をVRヘッドマウントディスプレイを装着した10人の観客が乗ったWHILL(パーソナルモビリティ)が動く。またセットの一部である白いボックスがステージ上を動き、様々なシーンで効果的に使用される。無線によって遠隔操作される白いボックスとWHILLの制作方法、そして安全対策を聞いた。

ユーザーから見たHMDの映像(提供:Rhizomatiks)

——ライゾマティクスの作品の多くはディレクターが作品全体の構成を考えて、ソフトウェアやハードウェアなど各自が担当する箇所を手がけていくとのことですが、この作品で制作を担当された白いボックスに関して、当初どういった要望がありましたか?

原田:観客はVRヘッドマウントディスプレイを装着して、WHILLに乗りながらVR・ARを体験するのですが、ステージ上のセットとして白いボックスが動くという演出が決まっていました。白いボックスを動かすには、オムニホイールを使えば普通のタイヤより自由な演出ができるのでは? という話になりました。

オムニホイールは、それぞれのホイールに小さなローラーが付いていて車体の向きを変えずに自在な動きが可能です。このオムニホイールを使うためにNEXUS RobotのArduinoベースで作られているボードを改造して、製作したアルムフレームにモーターとタイヤを取付け、無線モジュールを仕込んで制御しています。約8kgの白い箱の重量や、移動するスピードがパフォーマンスに耐えうるのかを試して、軽量かつシンプルに必要最低限のスペックで作りました。

オムニホイールを取り付けたステージモビール。 オムニホイールを取り付けたステージモビール。

——白いボックスを載せたステージモビールの操作方法をお聞かせください。

原田:白いボックスとWHILLにはモーショントラッキング用のマーカーが付いています。会場ステージの上にある赤外線トラッキングカメラで位置情報を得て、オペレーション用のPCから目標位置に移動するように計算し無線で制御量を送っています。例えるならラジコンのような感じです。また、ステージモビールからはバッテリーの電圧値/電流値をオペレーション用PCへ常に送り確認できるようになっています。

——リハーサルと並行してソフトもハードもアップデートしていくのですか?

原田:開発合宿中は、振り付けを担当したMIKIKOさんのダンスの演出が作り込まれるのを見ながら、ステージモビールを作り込んでいく状況だったので、初期は台車にボックスを載せて必要となる動きを検証していました。また、(最初の公演会場である)SPIRALでは床で横滑りや空転してしまうことがあったので、YCAMではグリップの強いゴムのオムニホイールに取り替えました。

原田の前職は大学教員。芸術学部でインタラクティブなシステムやメディアアートを研究対象としていた。 原田の前職は大学教員。芸術学部でインタラクティブなシステムやメディアアートを研究対象としていた。

ダンスステージを動く電動車椅子の安全対策

石橋:WHILLを採用した理由は、動きをコントロールする基板がXBeeとBluetoothに対応していて無線制御ができたためです。そうでない電動車椅子だと改造が大変でどうにもいきません。

WHILLや白いボックスの位置情報を得ているモーショントラッキングのソフトは、市販されているOptitrack社の「Motive」です。トラッキングが不安定になるとアラートが出て異常が分かります。メインのシーケンスから送られてくる目標座標に向けて制御量を計算し移動させています。制御量を決めるソフトは自社開発です。公演中は10分間のパフォーマンスを延べ約150回行いましたが、丸1日ひたすら画面を見続け、異常がないかを確認していました。

モーショントラッキングのソフトを解説する石橋。 モーショントラッキングのソフトを解説する石橋。

——WHILLを動かす上で苦労はありましたか?

石橋:安全対策ですね。ステージ上ではダンサーも踊っているところに、観客を乗せてリモートで制御していて、全部のシステムがオートマチックに動いているので、事故はあってはなりません。WHILLとロボットの制御にモーショントラッキングを採用したのは、以前にドローンを制御した経験が生きています。WHILLと白いボックスは、現在の自分の位置が分からなくなった場合やパラメーターに何か異常があった場合は動作を確実に止めるように設計しました。

モーショントラッキングのスクリーンショット。一番左のステータスがWHILL、隣がボックス。そして俯瞰した会場内を表示。 モーショントラッキングのスクリーンショット。一番左のステータスがWHILL、隣がボックス。そして俯瞰した会場内を表示。

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