Xiborg 遠藤謙インタビュー
サイボーグ義足で東京パラリンピックは金メダルを! スポーツ工学を考慮したテクノロジーで世界最速ランナーの育成を目指す
選手の感覚はすべて数値化できる
——選手の感覚をどうやって製品に落とし込んでいるのでしょうか?
極論ですが、数値化ができないものはないと思っています。数値ではなく感覚でしか表現できない選手もいます。選手に話を聞きながらこの表現の感覚を数値で表すと何なのか、自分の中で仮説を立てて検証する。どの数値を変更するとこの感覚に近づくのか。自分の中で考えて理解するプロセスが多いです。
——製品ではどうやって数値化しているんですか?
最近の例では、ロンドンパラリンピックに出場した佐藤圭太選手が新しい競技用義足を履いた時に「“バイーン”ってしてない」と話したことがありました。それから「バイーン」ってどんな感覚のことなんだろうかと自分の中で仮説を立てて少しずつ調整しながら履いて試してもらいました。仮説の数値を調整しながら意見を聞いて、選手の感覚に近づけていきます。これを繰り返すことで「バイーン」としていないという感覚がだんだん数値になって製品も選手の望む形ができてきます。
新豊洲Brilliaランニングスタジアムの目的
——Xiborgが本拠地を置く、新豊洲Brilliaランニングスタジアムの目的は?
健常者や障害者、高齢者も関係なく、走りを楽しめる場所であって欲しいと思っています。好きなように分け隔てなく走れる場所です。2020年東京パラリンピックに向けて、障害者スポーツをもっと盛り上げるための発信の拠点にしたいと思っています。
——Xiborg LABではどのように開発していますか?
Xiborgの「Xiborg LAB」は、新豊洲Brilliaランニングスタジアム内の施設です。開発はもちろんのこと、障害者スポーツを盛り上げたいという点で、義足を履いたことや走ったことがない人でもここで走る体験ができるようにしたいと思っています。いろいろなタイプの義足をそろえて、その人に合うものが見つけられて走れるような場所にしていきたいです。テクノロジーの発信の拠点にもしたい。競技用義足やロボット義足に限らず、テクノロジーに関心のある人たちがたくさん集まって、実証実験として使う場になるとうれしいです。選手たちともっとコミュニケーションをとって、どんどん新しいテクノロジーが生まれていく場所にしたい。
オープンしたばかりでまだまだこれからの状態ですが、ボール盤や3Dプリンタ、工具もそろってきて、今後の運営をどうしていこうか検討中です。新豊洲Brilliaランニングスタジアムは実証実験できる素晴らしい場所です。同じ場所で開発もできるので全体のスピードも早められると思います。
選手とものづくり好きが集まるコミュニティ
パラリンピックやスポーツ、走ることに興味があって、テクノロジーにも関心のある人たちが集まれるイベントを開催していきます。テクノロジーに関心のある人と選手たちと一緒にハッカソンを開催して新しいチャンスを作っていきたい。選手たちはエンジニアじゃないから作れない。でも得意なエンジニアならそんなに難しくもないアイデアがたくさんあります。例えば、一人で50メートルのスタートからストップまでのタイムを計測できる装置です。他にも競技スタート時の「よーいドン」でリアクションする速度を測れる装置もあったら嬉しいと選手が言っていました。得意なエンジニアだったらすぐに作れるものが、陸上競技にはまだまだ足りてないので、チャンスがたくさんあると思っています。新豊洲Brilliaランニングスタジアムでどんどん交流できるイベントを準備していきたいと思います。
2020年東京パラリンピック、目指すはもちろん金メダル
——今後の目標は?
目標はもちろん2020年東京パラリンピックで金メダルです。選手たちもコーチや義肢装具士と力を合わせて、そのために猛練習しています。競技用義足の次期製品も開発中で、それに向けたアイデアがたくさんあります。何からどう試していくか考えながら進めています。
20年後、30年後になってしまうかもしれませんが、世界最速の健常者選手よりも速い世界最速の義足の選手を育成したいという思いがあります。もし誕生させられたら、障害者に対する考えかたに大きな驚きを与えられると思っているからです。
直近の目標は、7月にロンドンで開催される「世界パラ陸上競技選手権大会ロンドン2017」で金メダルを獲ることです。とても大きな大会なので、今は選手たちもここを目標に練習を頑張っています。
ロボット義足や競技用義足の研究からコーチや選手、義肢装具士とエンジニアがチーム一丸となって世界最速の目標を目指すXiborg。走る楽しさや新しいテクノロジーが生まれる場の拠点になりながら、2020年東京パラリンピックの金メダル獲得するまで今後も目が離せない。