しくみデザイン 中村俊介インタビュー
しくみデザイン 中村俊介——世界が追いつくまでに15年を要した未来の楽器「KAGURA」
「苦節15年」2017年春に都内で開かれた製品発表会の場で、しくみデザインの代表をつとめる中村俊介さんは少し照れたような表情で、「KAGURA」のプロトタイプ発表から製品化までの長い月日を振り返った。
KAGURAはPCとWebカメラを使ってモーションで音楽を演奏する楽器アプリケーションだ。
2002年に制作したメディアアート作品「神楽」を基に、2013年にリメイク版を発表し、世界中の展示会に出展して数々のアワードを受賞した。
2015年の無料版の公開を経て、2016年にKickstarterでプロジェクトを公開。約2万8000ドル(約315万円)の支援を集め、2017年3月に製品版をリリースした。
デジタルサイネージも無ければ、内蔵カメラ付きのPCも普及していなかった2002年の発表当時は、コンセプトが理解されず、魅力を伝えるにも苦労したという。あまりに早すぎた作品は、いかにして時代の必然として復活を遂げたのか。
中村さんは1975年生まれ。滋賀県で幼少期を過ごし、小学4年から高校まで群馬で暮らす。高校時代から文化祭のポスターを描くなどデザインに強い関心を持っていた。大学では絵が描ける理系分野ということで建築を選び、名古屋大学に進学した。しかし、絵が描きたいという中村さんの気持ちを建築は十分に満たす分野ではなかった。
「授業は面白かったし、図面を描くのも全く嫌じゃなかったけど、自分の中で建築は合わない部分がありました。好きか嫌いかで言えば好きだけど、家を建てたいかと言われるとそこまでの気持ちは湧きませんでした」
その当時、中村さんは建築向けのCADソフトを開発する会社でアルバイトをしていた。入社当初はイチから言語を覚えるところから始めたが、1年たつ頃には図面を引くよりも図面を引くためのツール開発のほうが楽しいと感じるようになっていた。
ここでの経験が後に中村さんがキャリアを築く上で重要なポイントになる。
建築分野の大学院進学に失敗し、大学院浪人することを選んだ中村さんは、実際の施工まで関われない建築ではなく、最後まで自分がものづくりに関わることができるプロダクトデザインの分野に方向転換することを決める。
受験費用を捻出するためにアルバイトのソフトウェア開発に割く時間も増えた中村さんは、1人で新しいソフトウェアを開発する。それは2×4工法の建築物に特化した構造計算ソフトだった。
当時は過去の図面や計算書類を基に建物の構造計算を行い、国が定める耐震性をクリアしているかを手作業で確認していたが、中村さんが開発したソフトはそれらを全てソフトウェアで処理するもので、より正確な計算が可能になり、人件費などのコストも下げられるといったメリットがあった。
「最初は『まだ、こんな正確なものは要らん』と言われたんです。業界のニーズから見ても時期尚早という評価だったのですが、程なくして構造計算書偽造問題※が大々的に報じられたのを機に、木造建築でも構造計算はきちんとしないといけないという流れになり、『そういえば、中村さんが(ソフトを)作ってたよね』って言われて、日の目を見ました」
世の中の数歩先のニーズを見越したソフトウェア開発を行うなど、エンジニアとしての素質の片りんを見せた中村さんは九州芸術工科大学の大学院(現在は九州大学に併合)に入学。希望していたデザイン分野に進むことになる。
※構造計算書偽造問題:ある一級建築士が担当したホテルやマンションの耐震強度が不足していたことを2005年に国交省が発表。自治体や建築会社、建築物の性能評価を行った会社などを巻き込んだ裁判に発展し、大々的にメディアでも報じられた。