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しくみデザイン 中村俊介インタビュー

しくみデザイン 中村俊介——世界が追いつくまでに15年を要した未来の楽器「KAGURA」

ライバルと競わず、一緒に作る

念願のデザインが学べる環境に入った中村さんだったが、またしても理想と現実のギャップにぶつかる。

「入ったはいいけど、僕より4歳年下の大学1、2年生の人たちのほうが圧倒的に絵が上手くて、僕がいくらがんばっても、この差は縮まらないし、彼らが僕と同い年になった4年後には、今の僕よりずっと優秀になっていると思うと、今からデザイナーを目指すのは無理だなって」

しかし、中村さんはそこで単純にデザインを諦めるわけでもなく、今の自分の強みを生かした独自の道を進むことを決める。

「普通の人よりは絵も描けてデザインもできるし、プログラミングもできる。だけど、どちらも専門家には勝てないとなったら、二つを組み合わせないとできないことを目指そうと思いました。今でこそメディアアートという定義がありますが、20年前はそんなことをやってる人はほとんどいなくて、勝負しようがない状況だから言ったもの勝ちみたいな感じでした」

中村さんはデザイン性が高いものをシステムで動作させ制御するというスタイルに可能性を見出す。周りの学生には無いプログラミングの技術を生かした作品をコンペに出し、応募すれば必ず何かしらの賞を獲るなど、中村さんの狙いはすぐに成果につながった。

「KAGURAもその当時に発表した作品でした。演奏者の動きをカメラで読み取り、音に変換するという仕組みで、自分が楽器を弾けないというコンプレックスから開発しました」

インターネットとPCの普及に伴い、さまざまなアプリケーションに触れていく中で、中村さんはソフトウェアに人間が使われていると思うことが度々あった。図面を引くためのCADも文書を作成するWordも、元々は人間の手でできることをより便利にするために生まれたもの。PCと人間の手、それぞれのツールでないと絶対にできないものは何かを突き詰めた結果がKAGURAの基礎技術だという。

「音と絵、センサー情報を同時に扱えて、それでしか実現できない表現があれば、『これじゃないとできない』というものができるんじゃないかと思って、動きに合わせて音や絵が出る仕掛けにたどり着きました」

学生時代に開発した構造計算のソフトウェアは「まだ要らない」と一度言われたものの、時代の流れが味方して製品化にこぎつけた。KAGURAも同じ道をたどる事になるが、製品化までには15年の月日を要することになる。その長い月日をつないだのは、映像をリアルタイムに処理をして、音を再合成して再生するというKAGURAの基礎技術だった。

「内蔵カメラ付きのPCも無ければニーズも無かった当時、カメラを使った楽器として売り出すには無理がありました。今のようにネットでの販売やダウンロード配信も普及していなかったので、スタートアップが製品化できるような環境ではなかった。ただし、一般のシステムを使ったり、コンシューマ製品として売り出したりするには無理があるけど、クライアントごとにオリジナルのものを目的に合わせて開発して、法人に納めるというスタイルであればKAGURAの基礎技術は生かせると思いました」

KAGURAの技術が生かされたしくみデザインの制作事例。観客が球場内のオーロラビジョンに映ると、顔部分に虎のイラストが重なり、最後にスポンサー広告が流れる広告システム

中村さんはKAGURAの基礎技術を生かした双方向性のある広告やアミューズメント向けのシステムを開発する会社「しくみデザイン」を大学院時代の仲間と福岡で立ち上げる。

「大学院の修士1年の時に、同じ研究室に入ってきた学部2年生の男の子がすごく絵が上手くて『絶対に勝てないな』って思ったんですけど、絵は君の方が上手いけど、テクノロジーの部分は僕の方が知ってるから一緒にやらない? って声をかけて作ったら、自分の想像以上にいいものが出来上がって、1人で作る意味がないなって思ったんです。それで各分野で僕よりも能力の高い人間を集めたら、すごく実力のある一つの個ができるなと思って会社を作りました。かなわないなと思った後輩たちに声をかけて。今いる社員の半分はその時のメンバーです」

音声・画像処理を駆使したARや双方向性コンテンツは、今でこそ当たり前だが起業からの5年間は中村さんたちが独走する形で市場を開拓する。多くの企業が参入した後もこれまでのノウハウを活用し、企画提案から開発まで一貫して携わり、福岡でも注目の企業として認知されるようになる。

テーブルの上に皿を置くと、サンリオのキャラクター「ぐでたま」が現れる「ぐで寿司」。東京のサンリオピューロランドで現在も稼働中だ。

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