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しくみデザイン 中村俊介インタビュー

しくみデザイン 中村俊介——世界が追いつくまでに15年を要した未来の楽器「KAGURA」

Intel Perceptual Computing Challengeでのデモの様子(出典:しくみデザインのウェブサイトより) Intel Perceptual Computing Challengeでのデモの様子(出典:しくみデザインのウェブサイトより)

起業から10年が経ち、インターネットと共に時代は大きく変わった。
ARコンテンツは大人から子どもまでなじみのあるテクノロジーになり、カメラ付のPCも当たり前に普及して、ダウンロード販売やクレジット決済も簡単に導入できるようになった。
中村さんが手掛けてきたデジタルサイネージも、多くの企業が開発するようになり、広告やアミューズメント分野でメジャーな表現手法になった。

「当初『インタラクティブ』という言葉を使って説明していましたが、最初は『インタラクティブって何?』って反応でした。
地デジ放送が始まってからリモコンについた4色のボタンで視聴者が番組に参加できるようになったりして、『中村さんが言ってたインタラクティブってこういうことなんだね』って、一般の人でも理解してくれるようになりました」

機は熟したと判断した中村さんはKAGURAのリメイクに着手。音声・顔認識を活用したアプリケーションを対象に、米Intelが2013年に開催した技術コンテスト「Intel Perceptual Computing Challenge」にKAGURAをエントリーした。
その結果、16カ国2800作品の中からグランプリを受賞した。発表当初、「アートっぽいけど、実用性はない」とも言われたKAGURAは、ついに日の目を見ることになる。

その後、中村さんたちは世界各国のアワードや展示会へのエントリーと並行して、機能を絞り込んだベータ版を開発し、2015年に無料配布を開始。
リテラシーの高い世界中の業界人からのフィードバックだけでなく、ベータ版を利用した一般ユーザーからの反応を見ながら、製品版に向けてブラッシュアップを重ねた。

「空間を操作して音楽を演奏するという仕組みに目がいきがちですが、僕の演奏と他の人の演奏が全く別物にならないと楽器としては成立しません。
ツールの個性を引き立たせながら、自分でも何か曲を作りたいと思わせるだけのものになるように気を配りました」

アメリカで毎年開催されている音楽機器・楽器展示会「NAMM Show 2017」での様子(出典:しくみデザインのウェブサイトより) アメリカで毎年開催されている音楽機器・楽器展示会「NAMM Show 2017」での様子(出典:しくみデザインのウェブサイトより)

画面に映るオブジェクトに手をかざすと音が鳴り、それが曲になるという仕組みをシンプルに理解させるロジックは、15年間で培ったノウハウがふんだんに生かされている。

「不特定多数の前に置くサイネージは、ちょっとでも理解できない部分があると遊んでくれない。
いろんなものを盛り込むより、一つの機能や仕掛けにフォーカスを絞らないと成立しないというのは、10年以上手掛けてきた経験上、分かっていました。
ベータ版の配布も『身体を動かして演奏する楽器』というコンセプトをまず広めた上で、『あれを使って自分も作曲したい』という人が出てくるタイミングで、オリジナル楽曲が作れる製品版をタイミングよく出さないと、ユーザーの理解が追いつかない」

海外へのマーケティングと宣伝も兼ねて、2016年7月にDMM.makeのサポートの下、Kickstarterでクラウドファンディングを実施
2万8000ドルの支援を集め、製品化への強い手ごたえを感じたという。そして、2017年3月に製品版の提供を開始。学生時代に発表した「早すぎた作品」は、ついに一般のユーザーでも難なく利用できる形で製品化された。

今後はKAGURAを、より多くの人が利用できるように使い方のレクチャーの充実や利用できるきっかけ作りに注力することで、楽器としての認知を拡げていきたいという。

自分の能力を適正に理解し、テクノロジーを中心に置かない

中村さんは自分の能力を過信もしなければ卑下もしなかったからこそ、今の自分があると話す。
自分よりも優秀な人が目の前に現れたとき、素直に「かなわないな」と思い、すぐに「一緒にやろう」と声をかけられるフットワークは、どこから来るものなのだろうか。

「周りの状況を見て、自分のポジションを冷静に判断して、駄目なところは駄目だなってちゃんと思える。その代わり自分の強みが生かせる部分は武器にして、うまく活用する。こだわらなくていいところはこだわらず、うまく機能する部分を組み合わせて、ブルーオーシャンな世界を見つける。常に周りにできる人たちがいたからかもしれませんが、そういう判断は昔から早かったかもしれません」

これまで数多くのプロジェクトを手掛けてきたが、開発にあたってテクノロジーではなく、ユーザーの体験を重視することが重要だと中村さんは考える。

「よく『すごいは一度だけ、楽しいは何度でも』と講演で話すのですが、技術的にすごいものを作っても、すごいと言ってくれるのは1回だけで2回目以降は通用しない。
だけど、すごいと思う前に『楽しい、もう1回やりたい』と感じてもらうことが大事で、やってる人の楽しさや気持ちよさのためにテクノロジーを使うことが重要です。

テクノロジーが得意とすることは、ハードルを下げることだと思います。KAGURAで言うと楽器が弾けない人でも演奏することができる。これまでの楽器はつらい練習期間を経て曲が弾けるようになって、ようやく楽しいと思える。そこからがスタートラインなんだけど、そこまでたどりつくのにものすごく時間を要する。テクノロジーを使って、その最初のハードルを下げることができれば、やっていくうちに楽しくなって、やればやるほど奥深さに気づき、演奏者人口が従来の楽器よりも増えやすい状況が生まれる。僕たちが作るのは仕組みだけで良くて、それを使ってより多くの人が自由にすごいものを作ってくれたらいいなと思います」

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