人工衛星×IoTで日本の養殖業を変革する——海洋系ベンチャー「ウミトロン」のチャレンジ
近年、ニホンウナギの絶滅危惧種指定やクロマグロの資源管理強化など、水産資源の持続的利用に関するニュースをよく耳にする。良質な蛋白源として水産資源の需要が世界的に高まる一方、漁船による漁業生産は頭打ちとなり、水産資源の供給拡大を養殖業に求めるしかない状況になりつつある。
そして今、日本の食卓を支える養殖業界において、宇宙開発経験者が立ち上げたベンチャーが注目を集めている。人工衛星観測による海表面温度や植物プランクトン分布データと、海面養殖用いけす内に設置したセンサーデータを使い、海洋環境と魚群行動を分析することで水産養殖の革新を目指す「ウミトロン」だ。その活動について、同社CEO藤原 謙(ふじわら けん)さんにお話を伺った。(インタビュー:越智岳人 撮影:加藤甫)
宇宙飛行士になりたかった少年時代
藤原さんは、東京工業大学で機械宇宙システムを専攻し、その時に学生が開発を主導する超小型人工衛星プロジェクトに携わる。大学院修了後2008年に宇宙航空研究開発機構(JAXA)に入社、誘導制御系研究開発員として天文衛星プロジェクトなどを担当するという、宇宙一筋ともいえる経歴の持ち主だ。
ところがその後JAXAを休職、2011年にカリフォルニア大バークレー校に留学してMBAを取得し、2013年に三井物産に移る。そこで小型衛星プロジェクトや農業ITベンチャー支援など新事業開発担当を経て、2016年に海洋系ベンチャーのウミトロンを創業した。宇宙への夢を追い続けてきた藤原さんが、畑違いとも思える水産養殖へと活躍の場を求めた背景には何があったのだろうか。
——はじめに、大学時代は小型衛星開発プロジェクトを研究されていたということですが、子どもの頃から宇宙開発に携わりたいという夢があったのでしょうか?
藤原:はい、宇宙飛行士になりたいとずっと思っていました。ちょうどスペースシャトルの運用が本格化していた時代で、毛利さん(1992年にスペースシャトル「エンデバー」に搭乗した毛利衛氏)が日本人として初めてスペースシャトルで宇宙に行くのを目の当たりにし、自分も宇宙開発に関わりたいと強く思いました。大学に進学して4年生で研究室に入ったころ、小型衛星の2号機を作り始めました。最初に1号機をゼロから作ったメンバーらと一緒に2号機を作りあげ、2008年にインドで打ち上げることができました。
小型衛星の打ち上げ、そしてJAXAへ
——その後JAXAに就職されますが、やはり当然宇宙関係にという選択でしょうか。
藤原:修士課程を終えてそのままJAXAに入った感じですね。JAXAでは天文衛星の開発に携わりました。科学観測目的の望遠鏡を搭載し、地球ではなく宇宙を観測するための衛星の姿勢制御系の開発をやっていました。
やはり、JAXAの大型衛星プロジェクトともなると関係する人数も多くなり、特に科学観測系の衛星ではエンジニアチームとサイエンスチームという分野が違う人たちが集まるのですが、視点やスケールの違いを感じることがよくありました。例えばサイエンスの人たちは「10光年くらい(離れた天体)の観測はすごく近いからできるよね」という感覚で話すんです。僕たちエンジニアがふだん扱っている単位はミクロンとかミリのオーダーなのに、みんな数万光年先とかの話をしていて。JAXAは規模も大きいので、それぞれの専門分野を極めた人が集まって、切磋琢磨してプロジェクトをやっているなかで、すごく刺激を受けました。