人工衛星×IoTで日本の養殖業を変革する——海洋系ベンチャー「ウミトロン」のチャレンジ
——養殖に使う餌代の削減を課題として取り組まれています。
藤原:養殖生産のコストの中で、実は餌代が6~7割を占めていて収益インパクトが大きい。そこをどうにかしたいというのが生産者の一番の困りごとなんです。そもそも魚の餌はイワシやニシンの魚粉などが原料なんですが、チリやノルウェーで獲れる餌の原料になる小魚の漁獲量が停滞しているんです。その一方で餌を必要とする養殖生産は世界的にすごく伸びているため、魚粉価格は10年で3倍くらいに高騰しました。
もちろん飼料業界もコスト削減のための対策は考えていて、飼料メーカーなどでは餌に藻や昆虫を混ぜたりして低魚粉化を進めているところもあります。僕は餌そのものの開発ではなく、限られたタンパク源を使って効率的に魚を生産するという、分析的なアプローチをやろうと考えました。
——考え方は電気のエネルギーマネジメントに似ていますね。
藤原:そうです、魚も餌を効率的に吸収できる環境条件とか太るタイミングとか、餌を食べやすい時間帯とかがあるんです。今まで、各生産者が独自にやっていたところを、データを活用して効率化するシステムを作りました。
人工衛星の設計経験を海洋向けデバイスに
藤原:これがその装置で、いけすの中にカメラを入れ、魚の様子をモニターしながら画像解析を送信するIoTデバイスです。太陽電池を使っていてスタンドアロン動作するもので、自社開発しています。このデバイスを設置すれば、いけすの様子を弊社のWebサイトからリアルタイムストリーミングで見ることができます。生産者が持っている給餌機と連動させて、海中の様子を見ながら餌やりを調整できます。
藤原:生産者によっては50台ほどのタイマー式給餌機を使っています。デバイスの分析結果を基に、生産者が餌やりを止めた履歴や給餌パターンを分析、学習しながら、餌やりの最適なパターンを出しています。
まずは「魚を見ろ」という現場の声を聞く
——いけすにカメラを入れてモニターするというのは、想像していたよりもミクロで直接的なアプローチだと感じます。
藤原:実は最初は、いけすの水質をモニタリングすれば、餌食いの状況を判断できると思っていたんです。ですが実際に生産者と話をしてみると、「魚を見てナンボじゃ」といった意見が多くて(笑)それでカメラを付けてストリーミングビデオを撮ることにしました。
大学の先生とか生産者がこういうデータを見ると新しい知見が出てくるんです。このストリーミングビデオからでもいろいろなことを読み取っていて、ひれの色をみて健康状態が分かったり、お腹の張り具合をみて餌の量を調整したり、浮遊しているフンから消化の具合をみたりとか。餌やりを減らすだけではなく、逆に良く食べているときは餌を増やすことで成長を早めたりできます。
ただ、養殖生産における知見が、いち生産者で閉じてしまっているのが今の限界なんです。こうしたデータを収集し、営業秘密や独自のノウハウに関わる部分は除いて「見える化」することが、養殖業全体の底上げや、生産効率化のためには必要だと思います。これをそのためのデータのプラットフォームとして活用してもらえればと思っています。