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年末特集2017

日本の製造業とハードウェアベンチャー、双方の強みを生かした協業を考える【年末特集】

クリス・アンダーソンの「Makers」が出版されて5年がたった。fabcrossではこれまで多くのスタートアップやエコシステムと出会い、いわゆる「中の人」の話を聞いてきた。2017年を振り返るに当たっては少し見方を変え、製造業とベンチャーという全体を俯瞰(ふかん)しながら現状と今後を聞いてみたいと思う。今回、ものづくりの産業振興に関わり、製造業/スタートアップ/政府・行政の取り組みを支援されている、三菱UFJリサーチ&コンサルティング 政策研究事業本部 経済政策部研究員の北洋祐氏にお話を伺った。(インタビュアー:越智岳人)

北 洋祐(きた・ようすけ)三菱UFJリサーチ&コンサルティング 研究員
1983年生まれ。シンクタンクの研究員として、産業政策(製造業)とスタートアップ政策に関する調査研究や政策提言に携わる。
2013年頃から、Makersやハードウェアスタートアップ関連の研究を行い、最近では、この分野において官公庁や地方自治体と連携して政策の実行支援にも取り組んでいる。
京都大学経済学部卒業。猫が好き。
直近で執筆したレポート:
「日本におけるものづくりベンチャー発展の可能性と政策的課題」
http://www.meti.go.jp/meti_lib/report/H28FY/000342.pdf
twitter:
https://twitter.com/kitayooo)

 

「Makers」以降、スタートアップを取り巻く状況の変化

——日本におけるハードウェアスタートアップの状況はここ数年で変わってきているのでしょうか?

北:はい、ここ5年くらいで大きく変わってきています。クリス・アンダーソンが当初思い描いていた世界とはかなり違う方向ですが、ハードウェアスタートアップやそれを取り巻くエコシステムが、ずいぶん成長してきているように思います。

Makerムーブメントという動きが出てきた2012年頃は、私も含めてみんなよく分かっていなかったので、「Maker」という言葉の中で、ホビースト、クリエイター、ハードウェアスタートアップ、そして大学発のスタートアップなどまでが、新しいものづくりの潮流だとして、ひとくくりに語られていました。

その後MakerをサポートしようとするDMM.make AKIBAや中小のファブ施設が登場しますが、一言でMakerといっても実は多様な人たちの集まりで、それぞれ目指すところも抱えている課題も違うことが分かってきました。数年を経てプレイヤーの区分けが明確になってきたことで、支援する側もその対象を絞り込むようになってきています。この図はその関係性を表しています。

3つにグルーピングできるMaker

Makersと支援者、それぞれのグルーピングが明確になってきている。 Makersと支援者、それぞれのグルーピングが明確になってきている。

——3つのグループに分けられていますね。それぞれの領域にプレイヤーや支援者がいるということでしょうか?

北:左上の円は、Makerや個人クリエイターという区分けで、ホビーからスモールビジネスのレベルを志向するグループになります。右上は急成長志向のIoTスタートアップという定義で、いわゆるソフトウェア系ベンチャーの流れをくむ、オープン化された技術を組み合わせて事業を作り、ネットワーク効果によって市場を囲い込み、会社を一気に成長させようというグループです。下の円は、研究開発型としていますが、大学発スタートアップに代表される、いわゆるテクノロジー系スタートアップでハードウェアを開発するグループです。このグループは独自技術の開発や知的財産の権利化に熱心といった特徴があります。

——IoT系と研究開発系では、同じスタートアップでも中身が違うということですね。それぞれのグループに対応した支援者がいるということでしょうか?

北:はい、支援者側もこのプレイヤーの分類に応じたプログラムを提供するようになっているように思います。個人のホビーストが利用するファブ施設やMakerスペース、図ではファブラボとしていますが、ここでは「ものづくり教育」や「STEM教育」のような「教育」に軸足が置かれていて、ビジネス面での支援はあまり重視されていないようです。一方で左右の円が重なる部分にいるDMM.makeは、IoT系スタートアップの「事業化支援」を積極的に行っています。

そして、右上と下の円が重なる領域にいるのが、例えばHAXやMakers Boot CampなどのハードウェアVC兼アクセラレーターです。当初はIoT系をメインとしていましたが、近年は研究開発寄りの案件も支援するようになっています。

Makerと支援者のグルーピングを説明する北氏 Makerと支援者のグルーピングを説明する北氏

政策という視点から見たスタートアップ

——こうした民間による支援に対し、政策面の動きはどのようなものがあるのでしょうか?

北:政策の動きは、どうしても民間よりも一歩遅くなってしまいます。ようやくハードウェアスタートアップの重要性が官公庁にも認知されるようになって、政策的な支援が始まりかけている、というタイミングです。

ハードウェアスタートアップの多くは、ソフトウェアとハードウェアの融合領域で事業を行うので、日本が得意とする「製造業」の強みを生かしやすいですし、上手くいけばこれからの日本経済を引っ張っていく存在になるかもしれない。こうしたことに、官公庁や政治家の方々が気付きはじめた、ということだと思います。

実際に、既にいくつかのメディアで報道されていましたが、2017年度の補正予算で、ハードウェアスタートアップの製品開発や量産を支援する大掛かりな政策が実現する見通しです。

とはいえ、ハードウェアスタートアップは製品開発や量産に、目の玉が飛び出るほどの費用と手間と時間がかかるものなので、支援の手はぜんぜん足りていないのが現状です。官民問わず、もっと手厚い支援があってしかるべきだと私は思います。

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