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イベントレポート

「ファブラボ」の原点に触れる旅——第11回世界ファブラボ会議参加レポート

世界のファブラボで、何が起きているか

世界ファブラボ会議では、デジタルファブリケーションに関する研究論文を募集しており、それに採択された場合は会期中のセッションで発表することができます。ここでは、その研究発表を行うセッション、"Research Papers and Posters"からいくつかを紹介します。

自転車でファブラボを巡る旅——Tour de Fab

Tour De Fab紹介ムービー

まず紹介されたのは、デンマークのコペンハーゲンからスペインのバルセロナまで、15以上のファブ施設を訪れながら、ものづくりのコミュニティの今を記録していこうというプロジェクト「Tour De Fab」。旅の記録は日々ブログや動画サイトにアップロードされていき、リアルな情景を見てとることができます。

世界各地に点在するファブラボは、標準機材と呼ばれる共通の工作機械を持たねばならない一方で、その土地の歴史や自然環境に合わせたローカルな特徴も持ち合わせています。例えば、古くから伝わる伝統工芸とコラボレーションしたり、その土地でしか採れない素材を用いたりと、ローカルなコミュニティを生かした活動が行われています。

MadisonとMiriamのふたり。 MadisonとMiriamのふたり。

彼女らはこのツアーの中で「働きバチ」のようにさまざまなファブラボを媒介し、その土地のローカルな文化を吸収し、それを他のファブラボに伝播していきます。ヨーロッパのファブラボを巡るこの旅は、単なる個人の見聞で終わるのではなく、セルフメイドのドキュメンタリー映像として公開予定とのことでした。

グローバルなつながりとローカルなコミュニティが共存するファブラボでのものづくりの様子は、2年前にJens Dyvik氏によって公開された自主製作映画、「Making, Living, Sharing」でも伺い知ることができます。 

ファブラボをまるごとスマートデバイス化——Making FabLabs smart through sensors and Big Data analysis

FabLab TU Graz紹介ムービー

オーストリアのグラーツ工科大学に設置されたファブラボからは、工作機械や工房のあらゆる所にセンサを取り付け、機械の稼働時間やコンディション、あるいは空気成分などの情報を集積する取り組みが紹介されました。

工作機械にIoTデバイスを取り付けて遠隔操作するだけではなく、数値情報を積極的に収集していく方向性は新鮮に感じられました。発表の中では、レーザーカッター周辺の空気成分に異常が発見され、機材の一部を交換したところ通常に戻った、という事例が紹介されていました。 

IoTデバイスで収集したデータの利活用は、他のファブラボでも行われています。ファブラボバルセロナを中心に進行している「Smart Citizen」というプロジェクトでは、低価格のセンサキットを一人一人の市民が所有し利用することで、天候や周辺環境のデータ収集を可能にしています。都市全体の活動を把握することで、たとえばエネルギー配分の最適化や、快適な都市環境づくりに反映させることができるでしょう。

工房、あるいは町全体をスマートデバイス化することで、未知の問題発見やより効率的な空間の利活用を目指そうとする動きは、今後さらに加速するように思われました。 

ファブラボ考現学——The Modernology of Fab Labs: How to share the landscape of social fabrication

スケッチは全て「ファブラボ考現学」にて公開中 スケッチは全て「ファブラボ考現学」にて公開中

ポスターセッションで目を引いたのは、ファブラボ北加賀屋による「ファブラボ考現学」。日本を中心に、各地のファブラボの様子をスケッチしてアーカイブしています。

写真で見るのとは異なり、鳥瞰するような視点で捉えたラボの様子は、工作機械の配置や人が交流する様子が分かりやすく描かれています。ものづくりを行う場を考察する際に、とても価値のあるものだと言えるでしょう。

Research Papers and Postersセッションでは合計20前後の研究が発表されましたが、なかでも廃材やエネルギーに着目した持続可能性に関するリサーチや、ファブラボでの学びに必要な要素をまとめたものなど、ファブラボを客観的に見つめる自省的な研究が多かったことが印象的でした。最初のファブラボができてから10年、コミュニティとして成熟してきたことの表れのように感じられました。 

メインシンポジウム " How to make (almost) anything / Making : Impact "

会議は1週間にわたって開催されましたが、5日目には一般の方も参加可能なメインシンポジウムが用意されていました。

メインシンポジウムが行われたBoston Symphony Hall。 メインシンポジウムが行われたBoston Symphony Hall。

メインシンポジウムのテーマとなっている"How to make (almost) anything"とは、ファブラボの提唱者であるNeil Gershenfeld教授がMITで受け持つ、デジタル工作機械を用いながら「(ほぼ)あらゆるものを作る」方法を学ぶ授業の名前でもあります。

シンポジウムで特徴的だったのが、登壇者のほとんどがこのクラスの受講生だったということ。自分でものをつくる方法を学んだ人々が、その後社会の中でどのように活動して影響を与えていったのかをうかがい知ることのできる内容となっていました。

Design、Business、Tools、Research、Community、Educationの6ジャンルにおいて、5名前後の登壇者によるプレゼンとディスカッションが行われました。映像は全てアーカイブされているので、ぜひご覧になってみてください。

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