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好きこそ物の上手なれ、世界が信頼する椅子の神様——「椅子の神様 宮本茂紀の仕事」(京橋)

椅子張り職人であり、また日本初の家具モデラーとして、現在も第一線で活躍する宮本茂紀氏。修復から海外デザイナーの家具や乗り物のシートまで幅広く携わってきた多くの仕事を、名作やオリジナル作品を含む約35点の展示資料で紹介する展示「椅子の神様 宮本茂紀の仕事」が2019年11月23日までLIXILギャラリーで開かれている。

こんな人と仕事をしてみたい。そう感じる宮本茂紀の仕事への姿勢

宮本氏が手がけた椅子や模型、図面などさまざまな展示物を通して宮本氏の仕事を見ることができる。 宮本氏が手がけた椅子や模型、図面などさまざまな展示物を通して宮本氏の仕事を見ることができる。

宮本茂紀氏はデザイナーなどが描いた椅子のデザインを素材なども含め現実の形にしていく椅子のモデラー、修復、開発を含む椅子張り職人として65年のキャリアを持つ椅子のエキスパートだ。カッシーナ、B&B、アルフレックス、梅田正徳、藤江和子、隈研吾、アントニオ・チッテリオ、ザハ・ハディドなど超一流メーカーやデザイナー、建築家たちが信頼を置き宮本氏と仕事を共にしてきた。本展では宮本氏の仕事を通して新たな角度から椅子の奥深さや魅力、職人の価値に触れることができる。

佐藤卓氏デザインのソファ「SPRING」。自然素材と伝統技術を用いた一生ものがコンセプト。開発を担当した宮本氏が作った最初の試作 佐藤卓氏デザインのソファ「SPRING」。自然素材と伝統技術を用いた一生ものがコンセプト。開発を担当した宮本氏が作った最初の試作
新国立競技場の最初のデザインを手がけて日本でも注目された巨匠建築家ザハ・ハディド氏がデザインした椅子。 新国立競技場の最初のデザインを手がけて日本でも注目された巨匠建築家ザハ・ハディド氏がデザインした椅子。
半スケルトン状の椅子は、日本で椅子作りが盛んになった明治時代から現代までのクッション構造の変化を、宮本氏が自身の会社の職人へ教えるために作ったもの。 半スケルトン状の椅子は、日本で椅子作りが盛んになった明治時代から現代までのクッション構造の変化を、宮本氏が自身の会社の職人へ教えるために作ったもの。
1870年頃〜のモデル、バラバネ(単独のバネ)、馬毛/束土手を使用:充填物が馬毛で座面が固く、座り心地に安定感が出る。バラバネの下に力布として麻テープを張っていた。麻テープは劣化しやすくメンテナンスが必要だった。 1870年頃〜のモデル、バラバネ(単独のバネ)、馬毛/束土手を使用:充填物が馬毛で座面が固く、座り心地に安定感が出る。バラバネの下に力布として麻テープを張っていた。麻テープは劣化しやすくメンテナンスが必要だった。
1950年頃〜のモデル、連結バネ、ヤシの繊維、芝草/土手を使用:コイルスプリングの連結部分が力布代わりとなり、麻テープの劣化問題をクリアした。しかしバネの反発力が体にダイレクトに伝わるため、なじむまでに時間が必要。 1950年頃〜のモデル、連結バネ、ヤシの繊維、芝草/土手を使用:コイルスプリングの連結部分が力布代わりとなり、麻テープの劣化問題をクリアした。しかしバネの反発力が体にダイレクトに伝わるため、なじむまでに時間が必要。
2000年頃〜のモデル、エラスベルト、ウレタンフォームを使用:ゴム素材のエラスベルトを力布として張った上にウレタンフォームを載せる。作業効率を最重視した作りで、座り心地はソフト。だが素材の劣化が早く長年の使用には耐えられない。 2000年頃〜のモデル、エラスベルト、ウレタンフォームを使用:ゴム素材のエラスベルトを力布として張った上にウレタンフォームを載せる。作業効率を最重視した作りで、座り心地はソフト。だが素材の劣化が早く長年の使用には耐えられない。
ハンス・J・ウェグナーがデザインした「Ox chair」の宮本氏によるスケッチ:宮本氏はウェグナーへの強い憧れがあり、またこの椅子はウェグナーとしては珍しい貼りぐるみのデザインに引かれ自らこの椅子を購入し研究をした。 ハンス・J・ウェグナーがデザインした「Ox chair」の宮本氏によるスケッチ:宮本氏はウェグナーへの強い憧れがあり、またこの椅子はウェグナーとしては珍しい貼りぐるみのデザインに引かれ自らこの椅子を購入し研究をした。
山形新幹線「つばめ」のシートスケッチ:1995年当時の山形新幹線「つばめ」の座り心地の悪さに驚きシートの中身を調べたそうだ。 山形新幹線「つばめ」のシートスケッチ:1995年当時の山形新幹線「つばめ」の座り心地の悪さに驚きシートの中身を調べたそうだ。

展示内の説明文中に「『やってみなければ、分からない』と開発に挑み、デザイナーらの意向をかたちにしてきました。細部まで妥協せずに追及する、その姿勢にこそ不可能なことを可能にする力が宿るのかもしれません。」と書いてあったように、宮本氏の妥協をしない姿勢は、椅子への愛があってこそだと展示を通して感じることができる。またものづくりには、製品開発でどんな職人や工場と組むかによって、仕上がり、コストや納期などで差が出る側面が必ずある。デザイナーや開発者にとって、宮本氏のような良き職人、良き工場との人脈も技量の内なのだ。宮本氏のような陰のスーパー職人の存在の重要性を教えてくれる展示だ。

「椅子の神様 宮本茂紀の仕事」
会期:2019年9月5日(木)~2019年11月23日(土) 10:00~18:00
会場:LIXILギャラリー(東京都中央区京橋3-6-18東京建物京橋ビル LIXIL:GINZA 2F)
入場料:無料
休館日:毎週水曜日
オフィシャルサイト:https://www.livingculture.lixil/topics/gallery/g-1906/
主催:LIXILギャラリー

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