今週行ってみたいイベント
3Dプリントによる新たな彫刻の在り方——萩原亮個展「WEEKLY SCULPTURE」(台東区北上野)
彫刻家の萩原 亮(はぎわら りょう)氏による個展「WEEKLY SCULPTURE」が2021年6月21日から7月3日まで東京都台東区の「いりや画廊」で開催される。展示されるのは、家庭用の3Dプリンターや企業の3Dプリントサービスを利用して製作された立体作品たち。開催に際し、萩原氏に展示の背景を伺った。
(取材はオンラインを通じて実施しました:編集部注)
約1年にわたり3Dプリンターで毎週作品を制作
萩原氏が3Dプリンターを使い始めたのは、2020年4月の緊急事態宣言発出中のこと。外出自粛が求められる中で、新たな作品制作の手段として3Dプリンターを自宅に導入した。初めて触れる機械だったが、過去の作品制作で培った3DCGの経験と仕上げのスキルを活用しながら制作を続け、1週間に1つの作品を完成させる「#WeeklySculpture」と題してSNSで発表を続けてきた。
最大出力サイズが30cm×30cm×40cmのFFF(熱溶解積層)方式3Dプリンターで造形された大型の作品群は、萩原氏が塗装と研磨による仕上げを施したもの。 3Dプリント品の後処理や仕上げの手段は確立されておらず、試行錯誤を繰り返したという。
作品を気軽に購入できる仕組みを導入
DMM.makeやShapewaysといった3Dプリントサービスを使い、ナイロンや金属素材で造形した小型の作品群も展示される。大きな特徴として、これらの作品は各種造形サービスを通じ、オンデマンドの3Dプリント作品として誰でも購入が可能となっている。
数万円で購入できる小型の作品群は、萩原氏自ら仕上げた大型の「オリジナル」に対して、手に入れやすい「レプリカ」のような位置づけになるという。
「作品を見るだけではなく、作家が作ったものを購入していただくことで、思い入れが強まると思うんです。たとえ小さくても作品を手に取っていただくことが重要だと思い、こうした形式に踏み切りました。
また、外部のプリントサービスを利用することで、支払い手続きや梱包、送付といったお客様とのやりとりに関して、作家本人が割くリソースの削減にもつながります。他の作家からの批判も想定していましたが、新しい技術が好きなアーティスト仲間も多く、興味を持って見てもらえています」(萩原氏)
3Dプリンターによる造形や、作品を気軽に購入できる仕組みの導入は、彫刻家として制作活動を続けるための実験的な試みでもあったという。
「彫刻作品をひとつ作ろうとすると、数ヶ月から数年程度の時間がかかります。時間や場所の制約によって作品の供給量が限られてしまうことが、彫刻がいまいち流行らないことや、制作活動を続ける難しさなどにつながっていると感じていました。3Dプリンターを使えばそうした課題を解決できるのではないかと思い、僕自身が実験的に毎週のように作品を作り続け、1年かけて個展を開くことを決めて取り組んできました」(萩原氏)
#WeeklySculpture と題した本プロジェクトでは、3Dプリントを活用した彫刻作品を制作しています。
— 萩原 亮 RYO Hagiwara (@rrrhagi) March 11, 2021
3Dプリントによる新たな彫刻制作の在り方と、
DMM.make(@DMM_make)等の3Dプリントサービスを活用した、従来にはなかった彫刻作品の流通の仕方を模索しています。 pic.twitter.com/I8K1xaihmx
制作方法から販売形態まで、新たなチャレンジの集大成となる個展。最後に来場者に向けたメッセージを伺った。
「僕の作品は複雑な文脈を知らないと理解できないようなものではありません。純粋に形の面白さを見てもらえるよう努力しているので、アートに興味がないような人にこそ来ていただきたいです。いろいろな3Dプリントの方式も見られるので、技術に興味がある人にも楽しんでもらえると思います」(萩原氏)
萩原亮個展「WEEKLY SCULPTURE」
会期:2021年6月21日(月)-7月3日(土) 11:30-19:30(最終日16:00まで、日曜日休廊)
会場:いりや画廊(東京都台東区北上野2-30-2) 電話/FAX 03-6802-8122
告知ページ:https://www.galleryiriya.com/2021-hagiwara
萩原亮 Webサイト:https://ryohagiwara.com/