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トンカンテラス|海洋プラごみ問題にも取り組む、私設の“ものづくり公民館”(福井県福井市)

日本全国のfab施設を紹介するfabなび。今回紹介する施設は、福井県福井市、福井駅からバスで20分ほどの場所にある「トンカンテラス」だ。

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トンカンテラスを運営するのは、ソリッドラボ代表の黒田悠生(くろだゆうせい)さん。ロボット工学やエネルギーを学び、地元福井のプラスチック成形企業に就職後、東京の事業所で働いていた。転機となったのは、2019年に福井で開催された事業創造プログラム「XSCHOOL」へ参加したことだった。

福井の未来を考えるプログラムの中で頭に浮かんだのは、黒田さんの父のこと。障害を抱えて在宅介護が必要になり、外に行けない状態になってしまっていたのだ。多趣味だった父が家に閉じこもってしまう様子を心苦しく思い、「どうにか地域と家族の交流が生まれるような場所を作りたい」と考えた。そこで辿り着いたのが、自分の得意なものづくりをきっかけに、老若男女を問わず人が集まる「私設の公民館」のようなファブ施設の構想だった。

黒田さん 黒田さん

「もともとファブ施設に顔を出すことはあったのですが、XSCHOOLに参加して、より深くファブの文化に興味を持ちました。3Dプリンターで自助具を作ったり、みんなで空間やデータをシェアしたりする文化は、分け隔てない場所を作りたい僕にとって、しっくりくるものでした」(黒田さん)

XSCHOOLでチームを組んだメンバーと共に、プログラムの最終回でトンカンテラスの構想を発表。その後はしばらく東京での生活が続くが、トンカンテラス名義のInstagramアカウントを立ち上げ、自宅での3Dプリンター活用例などを発信していった。「長男として、いずれは黒田家を継ぐつもりだった」ということもあり、2020年には福井に帰郷。建具師だった祖父が「トンカン」と音を立てながら働いていた、実家の隣にある小屋を改装し、トンカンテラスのオープンに向けて本格的な準備を始めた。

トンカンテラス入り口の広い空間は、駐車場や大型の工作を行う場所として使う。 トンカンテラス入り口の広い空間は、駐車場や大型の工作を行う場所として使う。
3Dプリントされたアイテムの中には、3Dプリント製のギプスも。 3Dプリントされたアイテムの中には、3Dプリント製のギプスも。

プレオープン期間には、機材を体験するワークショップや図面を書くイベントなどを実施。黒田さん自身が作ったものをイベントに出展すると、ファブ施設がほとんどない福井の中での認知が広がっていった。トンカンテラスという場所や活動のニーズを感じた黒田さんは、事業として本格的に取り組むために会社を退職し、2022年1月にソリッドラボを立ち上げた。同年4月にトンカンテラスが正式オープンしてからは、高出力の大型レーザーカッターや、季節に合わせたワークショップを目当てに、老若男女が集まってくる。

福井市は恐竜の化石でも有名。3Dプリンター製のプテラノドンは、トイレを増設するためのクラウドファンディングの返礼品として制作されたものだ。 福井市は恐竜の化石でも有名。3Dプリンター製のプテラノドンは、トイレを増設するためのクラウドファンディングの返礼品として制作されたものだ。

トンカンテラスの一般開放日は、金曜日と土曜日。それ以外の日には、黒田さん自身がラボの機材を活用し、受託での設計や材料開発、オリジナルの商品開発などに取り組んでいる。中でも活発なのが、プラスチック廃棄物を用いたものづくりに取り組む「プレシャスプラスチック福井」としての活動だ。

若狭湾に漂着する海洋ごみ(画像提供:トンカンテラス) 若狭湾に漂着する海洋ごみ(画像提供:トンカンテラス)
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若狭湾周辺には、冬になると多くの海洋ごみが漂着し、福井県全体で年に7000万円もの税金をかけて処理されている。プレシャスプラスチック福井はそんな海洋ごみの新たな活用法を探るべく発足したプロジェクトで、プラスチックを素材ごとに分類して洗浄し、破砕と成形を経て価値あるかたちに作り変えることを基本としている。そしてトンカンテラスでは、オープンソースの破砕機や成形機をベースとしながら、地域の鉄工所や金型メーカーなどと連携して機材の改良にも取り組んでいる。

海洋プラごみは素材や色ごとに分別して処理すると、成形に利用可能な樹脂ペレットになる。 海洋プラごみは素材や色ごとに分別して処理すると、成形に利用可能な樹脂ペレットになる。
ペレットに熱を加えて出力するための射出成形機。 ペレットに熱を加えて出力するための射出成形機。
プラスチックごみから作ったペレットで、キーホルダーやホイッスルなど、アップサイクルされたプロダクトを制作して販売している。 プラスチックごみから作ったペレットで、キーホルダーやホイッスルなど、アップサイクルされたプロダクトを制作して販売している。

破砕機や成形機を持ち出して行うワークショップや、アップサイクルされたプロダクトの販売、スタディツアーへの協力などによって、プレシャスプラスチックの活動には収益も生まれている。プロダクトのパッケージングは黒田さんの家族が手伝ってくれることもあり、「家族のために始めた場所で、家族と一緒に活動できているのは本当に嬉しい」と語ってくれた。

海洋プラごみを用いて作られたボードゲームの試作品。福井県若狭町の水月湖に見られる泥の地層(年縞)を模したもので、県が運営する年縞博物館のお土産として製品化を目指している。 海洋プラごみを用いて作られたボードゲームの試作品。福井県若狭町の水月湖に見られる泥の地層(年縞)を模したもので、県が運営する年縞博物館のお土産として製品化を目指している。

今後は敷居の低いワークショップやイベントを企画し、より地域の人や子どもたちがトンカンテラスに来やすい環境を作ろうとしている黒田さん。福井でものづくりに関わる人や企業のハブになることも目指し、さまざまな場所を奔走している。

カラビナを作るための金型制作は、地域の企業に依頼。 カラビナを作るための金型制作は、地域の企業に依頼。
黒田さんのジャケットには親交のある企業のロゴや名前がずらり。 黒田さんのジャケットには親交のある企業のロゴや名前がずらり。

「この場所はものを作らずに喋っているだけでもいいし、隣の畑で土をいじってもいい。近所のおばちゃんがふらっと入ってきて、コーヒーだけ飲んで帰ることもあります(笑)。それが福井らしいし、黒田家らしい光景だと思っています」(黒田さん)

家族のために始めた場所に人が集まり、かつてトンカンと工具を叩く音が聞こえていた場所で、新たなにぎわいが生まれている。今後も地域の老若男女が集まり、福井の過去と未来を考える、そんな場所になっていく気配が感じられた。

かつて福井にあったショッピングセンター「ピア」の復刻看板やグッズは、地域住民から大人気。 かつて福井にあったショッピングセンター「ピア」の復刻看板やグッズは、地域住民から大人気。

概要

所在地 〒910-0804 福井県福井市高木中央1丁目1501
営業時間 金曜日/土曜日の10:00〜17:00
URL https://tonkanterrace.com/
料金 基本料金
大人:2時間まで:500円、1日フリー1000円
中学生/高校生:2時間まで400円、1日フリー800円
3歳〜小学生:2時間まで300円、1日フリー600円

機材利用料金
3Dプリンター:400円/30分
レーザーカッター:500円/15分

個別指導料:500円/30分

その他、詳細は公式サイト参照のこと。

機材

左から、Anycubic「Anycubic Mega-S」、Prusa Research「Original Prusa i3 MK3S+」、ELEGOO「ELEGOO MARS 2 PRO」 左から、Anycubic「Anycubic Mega-S」、Prusa Research「Original Prusa i3 MK3S+」、ELEGOO「ELEGOO MARS 2 PRO」
レーザーカッター:smartDIYs「LC950」 レーザーカッター:smartDIYs「LC950」
ミシン:JANOME「AngelicJC7130」 ミシン:JANOME「AngelicJC7130」
ハンドツール類 ハンドツール類
糸ノコ、電動鋸などの電動工具類 糸ノコ、電動鋸などの電動工具類

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