fabなび
11-1 Studio|建築家が営む、ものづくりとまちづくりを結ぶ場所(東京都板橋区)
日本全国のfab施設を紹介するfabなび。今回紹介する施設は「11-1 Studio(ジュウイチノイチスタジオ)」だ。
11-1 Studioは東京都板橋区、東京メトロ有楽町線の要町駅から7分ほど歩いた通りに面した場所にある。建物の1階部分がまるごと活用され、コワーキングスペースを兼ねたカフェと、「町Cō場」と名付けられた工作エリアなどから構成されている。
町Cō場ではテーブルソーやジグソー、ベルトサンダーといった木工用の機材やハンドツールを中心に、TIG溶接機やヒートカッターなども取りそろえている。講習で木工や溶接の基本を学んだり、カフェ利用のついでにワンポイントで利用したりと、利用の間口は幅広い。
特に目を引くのは、カフェからも見えるようにディスプレイされた刷毛やカンナの数々だろう。今ではあまり目にしない珍しい形状のものも並び、その様子はさながら博物館のよう。もちろん工作のために利用することもできるが、これらは11-1 Studioが設立された経緯を示す象徴的な役割も担っている。
「この場所はもともと、アイロン台を作っていた祖父の町工場でした」と教えてくれたのは、11-1 Studioを運営する砂越陽介(さごし ようすけ)さん。国内外の建築事務所での経験を経て独立し、一級建築士として事務所を構えるにあたり、かつて祖父が切り盛りしていた空間に着目。アイロン台の製造やメンテナンスを行う工場としての役目を終えてからは倉庫のようになっていたため、事務所として使うために整理する過程で、前述のカンナや見慣れない道具が山ほど出てきたという。
「最初はごちゃごちゃで見分けがつかなかったのですが、整理していくうちに貴重なものだと感じるようになりました。祖父は引退後に趣味で仏像も彫っていたので、そのための道具もあったのでしょう。また、周辺の町工場の多さにも意識が向くようになり、ただ事務所を構えるだけではない活用法を考えるようになりました」(砂越さん)
この辺りは板橋区と豊島区の区境にあり、川も近くに通っているため、町工場や材木店が集まっていた。しかし、時代の流れに応じて廃業する工場も多く、それらが味気のない新築住宅に建て替えられていくことに、砂越さんは違和感を覚え始める。
「自分が小さかった頃、開かれた町工場の入り口を介して、物の貸し借りや何気ない会話が交わされていたことを覚えています。建物の奥で何かを作っている姿が見える、この地域らしい風景が、何も特徴のない場所に平準化されていく——そんな流れに抗いたい気持ちが出てきたんです」と語る砂越さん。自身は町工場を継ぐ立場ではないが、だからこそ、事業承継と廃業以外の選択肢として、ものづくりを介した交流が生まれるような場所を開きたいと考え、11-1 Studioの計画を練り始めた。
各地のファブ施設も見て回り、ものづくりを行う工房だけでなく、目的がなくても訪れやすいカフェを併設した文化活動拠点として設計を進めていく。空間づくりにおいては、近隣の町工場との関係も意識した。材木の調達から始まり、家具や建具の注文、内装工事全般の依頼など、あえて分散発注することで徐々に町工場とのつながりを築いていく。そうした過程を経て11-1 Studioがオープンしたのは、2020年9月のことだ。
間借り営業にも対応したカフェには近所の人たちがふらりと訪れるほか、町Cō場を目当てにものを作りたい人もやってくる。また、11-1 Studioの設備だけでサポートしきれない場合は、近所の町工場につなぐような取り組みも行なっている。軸からボールペンを製作したい利用者のために金属加工業社を紹介したというエピソードからは、この場所が街のハブとして機能していることがうかがえる。
広々としたカフェスペースは、イベントやレクチャーの舞台としても利用されている。まちづくりとものづくりの関係をゲストと共に考える「レクチャーシリーズ」は、11-1 Studio開設当初から続く企画。ファブ施設の運営者をはじめ、まちづくりに関わる企業やNPOなどを招いたディスカッションは、「街に開かれた商工会議」のようなイメージで開催されており、11-1 Studioの実践やビジョンを深めつつオープンにしていく役割を担っている。
11-1 Studioの取り組みは、施設内だけにはとどまらない。2022年に一般社団法人for Citiesと協働で開催した「11-1 Studio Fellowship」では、3組のグループが近隣地域のフィールドワークやプロダクト制作に取り組んだ。ちょっとした飲食や語らいに使える屋台や、休憩用の畳やゴザを街の各所で展開するなど、ものを介して人々が街に繰り出し、交流を促すような仕掛けが生まれていく。
こうした取り組みを続けるうち、砂越さんは「魅力的な街にはものづくりが関連している」という確信を得始める。歴史をたどってみても、問屋街や城下町のにぎわいは、ものを作る職人や商店が集って生まれてきたものだ。それらすべてを刷新するのではなく、ものづくりの生態系が残る街の中で、少しずつ新しい文化が入っていく姿が魅力的に見えるのではないか、と仮説を語ってくれた。歴史ある町工場の風景を大切にしながら、カフェやコワーキングを通じて現代的な暮らしにも溶け込む11-1 Studioの日常は、まさにそうした魅力ある街の風景の一部といえるだろう。
オープン当初は単発のワークショップを積極的に展開していたが、それではものづくりへの意識が変わらないと感じた砂越さん。ただ一方的なサービスとして提供するだけでなく、ものの作り方や仕組みから参加者と共に考え、時間をかけて学んでいく「プロジェクトシリーズ」を企画した。ロケットストーブを作りたいという利用者の相談をきっかけに、数カ月かけて複数人がかりで製作したプロダクトは、「DIT(Do It Together)、みんなで作れば怖くない」という合言葉が結実したものだ。これからも、利用者の持ち込み企画は積極的に取り組んでいきたいという。
DIYを趣味的に享受するだけでなく、街の中を巡り、素材や加工場所を見つけて、本当に自分が必要なものや経験にたどり着く。11-1 Studioの活動を通じて、そうした感覚が広まっていくことで、ものづくりのある街の風景は変わっていくのかもしれない。
概要
所在地 | 〒173-0027 東京都板橋区南町11-1 |
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営業時間 | 月木金:10:30〜21:00 土日祝:10:30〜19:00 火/水定休、最終入店は19:00まで。 時間はいずれも目安、最新の営業状況はWebサイト参照のこと。 |
URL | https://11-1studio.wixsite.com/home |
料金 | 会員登録:初回安全講習費1500円+年会費3000円 月間登録プラン:初回安全講習費1500円+月会費500円 1hパス:600円 3hパス:1500円 月間フリーパス:9000円 卓上ヒートカッター:500円/30分 TIG溶接機:1000円/30分 その他、詳細はWebサイト参照のこと。 |