特別寄稿:フロンティアメイカーアメリカファブ施設紀行
サンフランシスコに行って気づいた日本とアメリカの良さ
経済産業省が2014年度に実施した「フロンティアメイカーズ育成事業」は、世界のニッチ市場で勝負するものづくりベンチャー志望者を海外に派遣し、現地でものづくりプロジェクトを実施するプロジェクトです。
この事業に採択され、アメリカで自作ギターアンプの試作開発をした九州大学の飯島祥さんに、現地での記録を寄稿して頂きました。3回に分けて掲載します。
第2回はサンフランシスコでの滞在の様子です(編集部)
第1回はこちらから
今回の海外派遣における僕のテーマは“自作アンプが生活を変える”でした。
そもそもこの事業に応募する前、紙コップをケースにしたアンプを作っており、この小さなかわいらしい外観と、アンプという機能を統合することに熱中していました。そこでサンフランシスコ滞在中は、LEDイルミネーション機能を統合した小型ギターアンプ、自宅練習用に特化したギターアンプを制作することで、新しい練習スタイル、演奏風景を提案することに決めました。
アメリカではアンプ性能の向上の追求というより、イメージした外観を即座に形にして、手に取ったときのイメージ、感触を確かめるという作業の繰り返しがメインでした。工業デザイナーが、アイデアを形にする段階に近かったと思います。
また、アメリカを旅しながら現地の人との交流を楽しみつつ、自分が欲しいと思うものを自分で作るための道具、人、環境が整えられたファブ施設を渡り歩き、自分の作品を作るだけでなく、DIY大国アメリカと日本のファブ施設や材料を販売するお店、ものづくりが行われている現場を比較しました。
2015/2/13
- サンフランシスコに到着→バンでユースホステルへ
- ファブ施設のTechShop San Franciscoで会員登録、施設内を見学
2/14
- TechShopで金属加工の講習を受ける。 金属板の穴あけ、切断、曲げ、仕上げ方など
- “大人の科学”付録の、ミニギターの組み立て
- 講習をもとに、鉄を使って名刺、メッセージボードを作成
普段は使えないような大型機械が使える恵まれた環境にいる分、危険度は増します。そのため安全に関する知識は絶対に押さえるべきだと思いました。一通りの説明はしてくれたものの、後は自己責任。鉄板に磨き加工を施していたら、厚さが不適切だったことに気づかず鉄板が爆音を立てて吹っ飛び、心臓が止まりそうになりました。
2/15
- ネット調べ(instructablesとRadioShack)
- アンプ用部品の買い物
- ミニギターの完成
- ギターアンプ作成に着手
ミニギターを完成させて、ユースホステルの友人とあれこれいじってみましたが、本物とは比べものにならない音質に落胆しました。分かりきった事ではありましたが、実際に組み立ててみることで、エレキギターは電子工作によるプロダクト以前に、工芸が施された“楽器”なんだなと思いました。そういった思いも含めて、今回はアンプに集中し、音の良し悪しよりも、人とものを自然につなげる、少しでもcoolだと感じられるようなアンプを目指していこうと思いました。
RadioShackは、日本にないタイプの素晴らしい家電量販店ですが、欠点も持ち合わせていました。
<長所>
日本でいうところの小規模のエディオンのような店でありながら、電子工作に必要な道具、部品がそろっています。ArduinoやLittleBitsなど、シリーズ化されたものがたくさん置いてあり、見ているだけでも楽しく、近寄りがたい雰囲気がありません。
<短所>
どれも高価。抵抗4本で1.5ドル(約185円)なんて日本ではありえないことです。
また、品ぞろえが日本ほどよくありませんでした。日本の電子部品店の、3分の1ほどの種類しかないと思います。
この日は、作ろうとしていたアンプの一つに必要なICが置いてありませんでした。効率を求めるならオンラインショップを利用すべきと思いました。
この夜、夕食帰りに歩いていたら、ストリートミュージシャンが演奏をしていました。それも弾き語りとかではなく、ベース、ドラムス付きで、かつ電源につないで爆音を立てていたのです。近寄ってみると彼らはホームレスで、段ボールには金を求めるメッセージが書かれていました。気の毒に思う気持ちもありましたが、歩いているこちら側としては、物乞いをしてくるホームレスよりもずっと陽気に見えました。そんなふうに、悲しみを昇華して表現に変えてみせる音楽の力はすごいと思うし、ブルースミュージックなどは特に、悲しみを乗り越えようとする歴史に根ざして発達した文化なのだと思いました。
2/16
- ギターアンプversion 1の作成(外装以外は完成)
- (3D CADモデリングソフト)「Autodesk Inventor2015」 Basicsの講習を受ける
2/17
- ギターアンプversion1の外装組み立て→完成
- Instructables調べ、オンライン注文の試み
- RadioShackへ次のアンプのための買い物
2/18
- アンプケースの穴あけ
- ミリングマシンの講習を受ける
2/19
- ハッカースペースのNoiseBridgeを訪問、他の利用者と一緒に工作
- アンプversion2の完成
今まで、なぜ九州大学の工房を貸してくれないのかと不満でしたが、あんな危ないもの常時手放して開放できるわけがないという思いも感じました。学校や施設ができることは、機材を準備してあげることと、イベントや人がつながるきっかけを作ることであり、あとは学生や大人が、自分で使いたいと思った時に、作りたいものを具体的にし、どういう加工をしたいか、基本的には自分で導かなければならないと思いました。
ただTechShopは、お金を払えば1カ月、好きな時間に工房を使えるというとても自由度の高い場所です。そんな風に、利用のシステムをなるべく簡易にすることは、人を集める上で大事かもしれないと感じました。