未来を拓くキーワード
ムーアの法則 いよいよ半導体の進化に限界?(上)
2014/09/04 11:00
パーソナルファブリケーションに欠かせないマイコンやFPGAなどの半導体デバイス。その技術や半導体産業の発展を語るうえではずせない重要なキーワードが「ムーアの法則(Moore's Law)」です。マイクロプロセッサの世界最大手として知られる米Intel社の協同創設者で現名誉会長のGordon Moore氏が、1965年に発表した論文の中で、その考え方を初めて披露。それ以降ずっと、この「法則」が半導体の技術やビジネスの道標になりました。ところが最近では、ムーアの法則の限界が近づいていると言われています。
ムーアの法則とは?
マイコンやFPGAなどのLSIには、電気回路を構成する基本的な半導体素子であるトランジスタが数多く集積されています。ムーアの法則は、1チップに集積できるトランジスタの数を予測するための「法則」です(図1)。
具体的には、「1チップに集積できるトランジスタの数は、2年で2倍に増える」というもの。発表当初は、「1年で2倍」でしたが、実情に即して最初に論文を発表した10年後の1975年に「2年で2倍」にMoore氏自身が改めています(図2)。
ムーアの法則は、「法則」と呼ばれていますが、実は経験則です。Moore氏が論文を発表した当時、1チップに集積できるトランジスタ数は1年で2倍のペースで増えており、論文ではこのペースが当面は続くと述べてありました。それから数年間は、実際にその通りになりました。ところが、その後このペースが鈍化してきたことから、10年後に「2年で2倍」に改めることになったわけですが、さらにその後2000年ころまで、この「法則」の通りに1チップに集積できるトランジスタの数は増えました。
微細化とともに市場が拡大
ムーアの法則が示したトレンドは半導体のビジネスに極めて大きな影響を与えました。このトレンドを先取りすることで、製品の競争力や付加価値を高め有利にビジネスを展開することができたからです。この仕組みを、もう少し詳しく説明しましょう。
一般的なLSIは、ウエーハと呼ばれる薄い円盤状の素材の表面にさまざまな処理をほどこして、微細な回路パターンを描いて作ります。この回路パターンを描く線の幅を狭くすればするほど、同じ面積により多くの回路を描くことができます。つまり集積数を増やすことができるわけです。一方、同じ規模の回路ならば、より小さな面積で実現できます。前者の場合は、同じチップ面積のLSIに、より多くの回路を集積することで付加価値を高めることができます。後者の場合は、同じ規模のLSIをより安価で実現できます。いずれを選択しても、市場におけるLSIの競争力を高めることができるはずです。
さらにパターンの微細化は、LSIのパフォーマンス向上という利点ももたらします。一般的なデジタルLSIに使われているトランジスタは、微細化を進めることで、より高速で動作するようになります。しかも、このときトランジスタで消費する電力も小さくなります。つまり微細化を進めることで、より効率よく動作するようになるわけです。
さらに重要なことは、微細化によってコストを下げたり、小型化を進めたり、さらにパフォーマンスの向上を図ったりすることによって、LSIの用途が広がることです。例えば、マイクロプロセッサは、かつてはコンピュータが主な用途でしたが、低価格化や小型化が進むとともにモバイル機器や家電製品などにも搭載されるようになりました。
大きなビジネスチャンスをもたらすことから、多くの半導体メーカーが、こぞって微細加工技術の開発に投資しました。この結果1970年代以降、半導体の加工寸法は年々小さくなりました。例えば、1970年代に10マイクロメートル(マイクロは100万分の1)だった最小加工寸法は、最近では約20ナノメートル(ナノは10億分の1)と桁違いに小さくなっています(図3)。
これとともに半導体市場は急拡大しており、1970年代および1980年代に半導体の市場は年率平均17%ものペースで成長しました(図4)。
このころ半導体メーカーが、微細化のトレンドを追ううえでの目標となったのが、ムーアの法則が示した「2年で2倍」だったのです。微細加工寸法が0.25µmに達した1990年代ころまでは、ムーアの法則に沿うかたちで順調に微細加工技術が進展し、1チップ当たりに集積できるトランジスタの数が増えていきました。ところが、これ以降になると、このトレンドに陰りが見えてきました。
(後編に続く)