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Redshift 日本版提携連載「ものづくりの未来」のストーリー

金属鋳造+アディティブ マニュファクチャリングで理想形を実現

ジェネレーティブ デザイン、アディティブマニュファクチャリング、鋳造を組み合わせて製造された飛行機の座席フレーム[提供:オートデスク]

工業生産メーカーの多くが、従来は作成できなかった形状を実現するプロセスとなる金属アディティブマニュファクチャリング(積層造形)に胸を躍らせていると主張する。では、実際に何らかのアクションを取っているメーカーは、どのくらいあるのだろうか?

アーリーアダプターである一部のメーカーを除いた大半の製造会社は、アディティブマニュファクチャリング技術がいつ成熟するのか、その日が実際に訪れるのかどうかを、ただ静観しているだけだ。このストーリーの読者も、そうなのかもしれない。公平を期すために言っておくと、メーカー各社が金属アディティブマニュファクチャリングに飛びつかず、鋳造など従来の製造技術にこだわるのには幾つかの理由がある。

まず、アディティブマニュファクチャリングに使用できる材料のうち、広く一般に利用可能なものは10種類程度であるのに対して、鋳造であれば数百種類もの合金を使用できる。しかも新たなカスタム材料を使うことは、大量生産される製品の1つの部品だけであったとしても、非常に簡単だ。次に、鋳造は幅広いサイズの部品に対応できるが、金属プリンターで作成できるのは、一般的にはパンケースのサイズ以下に限定される。第三の要因は、コストと時間だ。直接金属レーザー焼結法(DMLS)マシンは非常に高価であり、何らかの熱間等方圧加圧法(HIP)や、ビルドプレートからの支持構造物(サポート)の除去など、かなりの後処理が必要なことが多い。

そして最後に、鋳造は何世紀にも渡って使われ、その存在が広く認知された、確立したプロセスである。そのプロセスの正当性を証明する必要がないため、多くの時間とコストも節約できる。

だが幸いにも、こうして鋳造へ依存することが、ジェネレーティブデザインによる先進的なジオメトリの活用や、アディティブマニュファクチャリングへの取り組みを始めることから、メーカーを排除してしまうわけではない。実際のところ、最新の鋳造技術によって、こうしたテクノロジーへの経路が提供される。

形状と材料が同時に定義される一般的な金属3Dプリントのプロセスとは異なり、鋳造の場合、形状と材料は独立した2段階で定義される。

この概念をベースに、次のような方法によって、テクノロジーが実現した3つの偉業の恩恵を受けることができる。まずはコンピューター内でジェネレーティブデザインとデジタル最適化を使用して高性能の形状を生成し、非金属のアディティブマニュファクチャリングにより、その形状の鋳型を作成する。そして最新の鋳造手法を用い、適切な金属を材料に使用して、その形状を完成させるのだ。

こうしたアプローチにより工業メーカーは、今後より重要な役割を果たすであろうジェネレーティブデザインとアディティブマニュファクチャリングの両方へ取り組むきっかけが提供される。また現時点においても3Dプリント製の型を使うことで、従来は実現不可能だった形状の金属部品を鋳造するというメリットが得られる。

こうしたプロセスは、自動車産業や航空宇宙産業など、軽量化が重要なビジネスにもプラスとなる。また、医療用インプラント関連企業が、人工膝や股関節など移植用のカスタム オブジェクトを作成するのにも最適だ。

3つのテクノロジーを駆使した製造の一例となるよう、オートデスクの社員であるアンディ・ハリスと私は、格子最適化、3Dプリント、インベストメント鋳造を用いて、航空機用の超軽量シートフレーム(座席フレーム)を製作した。シートフレームの製造にはマグネシウムを使ったが、それは一般的にシートフレームで使われるアルミニウムに比べて 35%も軽量である上、強度重量比も高いからだ。現行の金属アディティブマニュファクチャリングプリンターではマグネシウムはプリントできないため、我々は北米に数カ所しかないマグネシウムを扱う鋳造工場のひとつ、ミシガン州のAristo Castに助力を求めた。Aristo Castのチームはシートフレームをプラスチックでプリントした後、それをセラミックで覆い、プラスチックを溶かしてセラミック製の鋳型を作成。そこにマグネシウムを流し込んで、完成形のシートフレームを作成した。

こうして生まれたシートフレームは、その材料とラティス(格子状)デザインのおかげで、その重量は56%も軽量になった。こうした軽量化により、615席のエアバスA380は年間のフライトで10万ドル相当の燃料を節約できる。A380の耐用年数は20年を超えるので、100機の節約額はトータルで2億ドル。大気への二酸化炭素排出量にすると、14万トン以上の削減となる。

多くの鋳造工場が、あまりに異質な形状や複雑な形状に関わりたがらないのは事実だ。低収益のプロトタイプ製作ではなく、製品の製造こそが工場を稼働させている業務なのだから。だが、先進的な考えを持つAristo Castは、これまで少なくとも20年に渡って3Dプリント技術を使用し、新たに登場する全ての新技術を検証している。

Aristo Castで3Dプリントによる座席フレーム鋳型の準備中[提供:オートデスク] Aristo Castで3Dプリントによる座席フレーム鋳型の準備中[提供:オートデスク]
鋳型原型を粒子と結着剤からなるセラミックスラリーに浸ける[提供:オートデスク] 鋳型原型を粒子と結着剤からなるセラミックスラリーに浸ける[提供:オートデスク]
溶融マグネシウムを座席フレームのセラミック製鋳型に流し込む[提供: オートデスク] 溶融マグネシウムを座席フレームのセラミック製鋳型に流し込む[提供: オートデスク]
座席フレームから鋳型部分を除去[提供:オートデスク] 座席フレームから鋳型部分を除去[提供:オートデスク]
マグネシウム製飛行機座席フレームの完成形[提供:オートデスク] マグネシウム製飛行機座席フレームの完成形[提供:オートデスク]

部品の納品まで18カ月待つ必要があるという鋳造の通説に反して、Aristo Castは最短 2 日で部品を納品できる。これは、大抵の金属プリントよりも速い。Aristo Castはインベストメント鋳造を専門としている。インベストメント鋳造は、ワックスや発泡スチロールなどの材料で原型を作成してそれを基に鋳型を作成し、原型を高温で消失させた後、任意の材料でオブジェクトを鋳造する。インベストメント鋳造は、mm未満の精度による、極めて忠実性の高い鋳造が可能。原型に指紋が付いていると、その指紋が鋳物にも現れてしまうほどだ。

別の鋳造技術である砂型鋳造の場合は、砂型を使用して金属部品を生産するが、この砂型は 3Dプリントが可能だ。砂型鋳造は、細部の再現は苦手だが、金属アディティブマニュファクチャリングやインベストメント鋳造よりずっと大型の、数tの重量、全長数十mの部品を作成できる。

鋳造工場の多くが、大量生産になるにつれアディティブの方が、特に砂型鋳造による複雑な形状の実現と比較すると、コスト効率が優れていると認識し始めている。単にパブリシティ目的でのみアディティブマニュファクチャリングが使用されている現状を業界が克服すれば価格も低下するし、広く採用されるようになれば、従来の製造技術よりも高い価値を提供できるようになるだろう。

これを現実のものとすべく、3D Hubsはアディティブマニュファクチャリングと鋳造を組み合わせることで、金属部品を素早く低価格で提供できるサービスをローンチした。3D Hubsは鋳型のプリントと鋳造工場への転送、鋳造までのプロセス全体を管理する。プリントには押出ベースの FDMプリンターを使用しているが、層の跡(解決に時間のかかる課題だ)を除去する蒸気平滑化が可能な、鋳造プロセス用に特別に開発された材料を使用している。

3D Hubsのようなサービスは、デザインエンジニアにアディティブ向けのデザインを体験させる優れた方法だ。重要なのは、サードパーティのサービスを利用するにしても、独自の試みを行うにしても、とにかくこのテクノロジーに取り組んでみることだ。鋳造におけるアディティブマニュファクチャリングやジェネレーティブデザイン、形状最適化の利点は、すべて手近に利用できるものになっている。

●(Redshift by Autodeskより転載)
『金属鋳造 + アディティブ マニュファクチャリングで理想形を実現』
https://www.autodesk.co.jp/redshift/metal-casting-and-additive-manufacturing/

著者:Andreas Bastian/アンドレアス・バスティアン

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