忘年会対談:IAMAS 小林茂&スイッチサイエンス 金本茂
2015年のメイカームーブメントを総括——新しいフェーズが見えてきたこの1年
近未来の限界集落
小林:同時並行で「IoT Boot Camp」という取り組みを2015年に2回やりました。会場が変わっていて、限界集落※でやったんです。今後、日本の人口が減っていくというのは明らかです。一方、インターネットは基本どこでも使え、オープンソースハードウェアというテクノロジーもある。それらを使いこなせるMakerを限界集落に集めたら、そこから日本の近未来が見えるんじゃないだろうかと。最初はうまく言語化できない謎の直感だけだったんです。
でも、2015年の7月末にリリースされた「myThings」というIoT関連サービスに関わる方々と話した時にこのアイデアが出てきて、ちょうどタイミングが良かったので実行することができたんです。六本木とかでふだん働いている人たちがやってきて、現地にあった公民館のようなところを改装した会場で集中的に作業して近くの民宿で合宿したんですが、現地での調査や討論、プロトタイピングを重ねるうち、課題が見えてきました。「課題解決に高いお金を出してシステムを作ったけど、作ってみたら使えない」っていうのが従来のパターンでした。
でも、「こういう課題があるよ」ってなったとき、オープンソースハードウェアを使い、スイッチサイエンスで売っているような部品を集めてソリューションをその場で作るという解決策が今ならとれる。「完璧を目指すのではなく、インターネットみたいに、100%動くわけじゃないけど、だいたい動くので十分じゃん」っていうような世界観。もちろん、普通の人がすべてをできるとは思いませんが、そういうところに実家があって、親の介護で戻らなくちゃいけないが、スキルはある。そんな人たちが活躍できるフェーズに入っているように思います。限界集落と言いながらも、ケーブルテレビがあったところを置き換えたので、ネット自体は通っているんですよ。電気があって、インターネットがあって、宅配便がくれば、別にどこでも「いけるじゃん」っていう感じですね。通勤もしなくていいですし。
金本:実はうちもスタッフはいろいろなところにいます。ひとりは大阪、ひとり上野で在宅、ひとりは名古屋。それでも仕事は回ります。
小林:そういう多様な働き方ができるようなこともテクノロジーのおかげです。本来、テクノロジーは我々の生活の質を上げるためにあるわけですから、これこそあるべき姿だと思います。
2015年のイチオシ商品
——金本さんはいかがですか? 「2015年はこの商品」とかありましたか?
金本:「mbed」(編集部注:プロトタイピング向けのARMベースのワンボードマイコンとそのプログラミング環境)には力を入れました。新しいmbedの製品の開発もそうですし、mbedを盛り上げるための広報活動や、ARMさんのお手伝いもしました。手間はかけましたね。2014年に比べるとだいぶ伸びたんですけど、まだまだ売り上げがついてこない感じです。2016年に期待しています。
※限界集落:高齢化が進み、65歳以上の人口比率が50%を超えた村落。