「世界の工場」中国の生産現場最前線レポート
中国で作ることの強みと弱み。岐路に立つ生産工場の今
中国が「世界の工場」に君臨してすでに久しい。衣料雑貨に始まって、トイ、家電製品、パソコン、携帯とも中国抜きに生産は語れない。筆者は10年近く前、「大人の科学」という商品のため、香港にほど近い、深セン・東莞地区のトイ関連工場を頻繁に訪れていた。今回、機会を得て久しぶりに彼の地を再訪。何が変わり、何が変わらないのか、レポートしてみたい。中国工場での量産を考えているハードウェア・ベンチャーの人たちにも参考になるはずだ。
生産の最前線に立つ
「お久しぶりです」
爽やかな笑顔とともに、学研香港の鈴木康治氏が現れた。学研は筆者がかつて勤めていた会社で、鈴木氏は元の同僚。「大人の科学」の真空管ラジオやArduino互換機「ジャパニーノ」などの生産を現地で管理してくれた。今も中国生産の最前線に立つ。10年前と比べて、現状はどうか、話を聞いてみた。
「一番大きな点は、単純に工場の数が減ったことです。10年前は雨後の筍のようにできていましたが、今はかなりの工場が閉鎖し、選別化、系列化が進みました。『安かろう、悪かろう』の工場はどんどん姿を消していきましたね。原因はいくつかありますが、人件費の高騰が一番でしょう。ここ10年で2倍から3倍になりました。反対にオーダーは世界的な不況感の中で減少傾向にあります。大手の工場でも傷が深くならないうちに撤退したところがかなりあります」
サバイバル戦を勝ち抜いた工場
撤退した工場の多くが香港系、台湾系など、大陸系以外の資本を中心にしたところが多いのも特徴だったという。
「普通に稼働していたのに、急に動きが怪しくなる。ある日行ったら誰もいなかった、なんてことが私の担当していた香港系の工場でもありました。トイ工場としては大手でしたが。7~8年前にはめずらしくないパターンでしたね」
鈴木氏は語る。
「今、生き残っている工場は、それなりの技術を持ち、新しい機械を入れ、クライアントの厳しい要求基準に応えられるだけの投資と工夫をしてきたところが多いですね。全体として価格は上がりましたが、商品の質もそれなりに上がったと思います。大陸系、つまり中国本土の工場がわりと多いのも特徴でしょうか」
実際に自分の目でその変化を確かめるべく、鈴木氏が担当している工場を訪問した。