「世界の工場」中国の生産現場最前線レポート
中国で作ることの強みと弱み。岐路に立つ生産工場の今
海外企業の厳しい基準をクリア
会社の名前は「キャスミー(皆致美)」。深セン市の東北部にある。規模から言えば、平均的な中国工場だが、創業して17年になる。荒波を乗り越え、しぶとく生き抜いてきた。主力商品はトイ。その名を聞けばだれもが知っている世界的なキャラクターの商品を扱っている。したがって、その基準は非常に厳しい。商品が仕様通り完璧であることはもちろんだが、安全や清潔といった労働環境への配慮も基準の中に入っている。それらをすべてクリアして初めて生産工場としての認定が受けられる。事務所には認定証が誇らしげに飾られている。
キャスミーのスタッフに工場を案内してもらった。最初は彩色の現場。スプレーや筆を使って工員たちが1個、1個丹念に仕上げていく。昔は塗料の溶液でむせかえるようなシンナー臭さだったが、それがない。大きな通気口用のダクトから音が聞こえる。換気が効いている。工員の健康を守るための処置で、クライアントからの要求でもあるそうだ。採光も十分だ。昔は、彩色の場所にも関わらず、暗いところも多かった。近くではタンポ印刷やシルク印刷の機械も稼働している。
※タンポ印刷:パターンがエッチングされた平板から転写体(通常はゴム)にインキを転写し、印刷したいものに押し付けて印刷する。「パット印刷」とも呼ばれる。
※シルク印刷:微小な穴の空いた版をスクリーンとして、印刷したいものを覆い、穴からインクを流して印刷する方法。「スクリーン印刷」とも呼ばれる。
意識改革は今も進行中
キャスミーとしての作業工程表が、どの作業場にも必ず掲げられている。工員はまず、これを学び、自分がやっている仕事が、どこの何に当たるのかを理解した上で作業する。工程を標準化し、不良品を出さないようにする工夫の一つ。細かいことだが、10年前とは隔世の感がある。昔は、自分が何をしているのか、何を作っているのか、工員一人一人は自覚することなく、目の前のベルトコンベアに乗って流れていく商品に向け、自分の作業を行うだけだった。「不良品が出るのは当たり前。仕方ない」と工場の担当者に居直られることもしばしばあった。
どの作業場でも、作業の終わった部材などはプラスチックのボックスに入れられるが、必ずカバーがかけられている。ちょっとしたことかもしれないが、カバーをしないと埃やごみなどが混入しやすくなる。こういう細かいところの管理は、昔は徹底されていなかった。だいぶ意識が変わっていると感じる。
次は最終アッセンブルの現場。ここで全ての部材がチェックされ、組み立てられて箱詰めされる。ベルトコンベアでの作業だが、これを見て驚いた。みんなきびきびと手早く動いている。昔はこんな光景は滅多に見られなかった。まるで、どれだけゆっくり作業するかをみんなで競っているのかと思いたくなるくらい、動きは遅かった。きびきび動けば、活気が生まれる。日本人が普通に思う工場のイメージに近くなったと思う。
※アッセンブル:最終製品にするため、部材の組み立てや商品の箱詰めなどを行うこと。