「世界の工場」中国の生産現場最前線レポート
中国で作ることの強みと弱み。岐路に立つ生産工場の今
人から機械へ。戦術の転換
続いて「バオフォン(宝峰)」という印刷工場に行った。通常の印刷はもちろんだが、箔押し、エンボス、組箱といった特殊加工を得意とする工場だとのこと。最近ではスクラッチ印刷(削ると剥がれる別のインクを塗布する印刷)まで手掛けているという。
糊付けし、折って箱を組み立てる一連の流れを1台でこなす機械もあった。工員が一人付いて操作盤を見つめている。昔なら、ずらりと工員が並び、糊を付け、折り、組み立てるといった感じだったが……
機械化は一つのキーワードだ。中国といえば人海戦術が常套手段だったが、人件費の高騰でおいそれと人が雇えなくなった。また、経済力がジリジリ上がり、地方でも少しずつ仕事が見つかるようになってきたため、以前と比べ沿岸部に出稼ぎに来る人は少なくなってきたようだ。それをカバーするために、新しい工作機械を導入する工場が増えているとのこと。これも、かつての中国工場からは考えられないような変化だ。
フェイスtoフェイスのコミュニケーションは今も必要
「日々改善されていく中国工場ですが、まだまだ課題もあります。細かいチェックは、電話やメールではできません。経費をかけてでも、現場に来て、商品をチェックし、担当者と信頼関係を築くことが、良い商品を作る早道ですね」と鈴木氏は主張する。
例えば、今も残る課題の一つ、色。細かく色を調合し、クライアントの意向に沿った成型色を作る。ところが、これがなかなかうまくいかない。例えば、単一色の白や黒でも、金型取りの関係で2つに分かれると、成型時の温度や湿度の違いで色の出方が微妙に変わる。明るさ、光といった商品を見る時の条件を揃えたとしても、見え方の個人差は捨象できない。色のささいな違いが無視できるような商品ならいいが、色自体がその商品の根幹をなすようなものだと、大問題だ。
また、消費者に多少なりとも組み立てさせるような商品の場合、嵌合の具合は大きな問題だ。大人ものか、子どもものか、子どもなら何歳が作るものなのか、それによって具合は変わる。ゆるすぎず、きつすぎず、最良のフィット感を出す。「ゆるくて機能しない」「硬くてはまらない」などは、成型時の条件で微妙に変わることもある。これを防ぐには、最終決定権者が自分の目でチェックすることが必要。色や嵌合に限らず、現地任せにすることは中国生産ではまだまだ危険のように思える。
良きにつけ、悪しきにつけ、中国抜きでものづくりは語れない。東南アジア、インドと海外での生産拠点は広がりを見せているが、電力の安定供給、部材調達、輸送網など中国が持つインフラには遠く及ばない。これからも、彼の地の強みと弱みをよく理解して付き合っていかねばらないと感じた。
※放電加工:アーク放電によって硬い金型を加工する方法。複雑な輪郭を削り出すことができる。削られた細かい金属粒子は、水によって洗い流される。