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アジアのMakers by 高須正和

Makerマインドの原点と最新形がここにある 世界最大のMaker Faire Bay Area 2016

世界のMaker Faireの元祖、アメリカ西海岸で行われるMaker Faire Bay Area 2016は、11周年となる今回、来場20万人を超える世界最大規模のMaker Faireとなった。恐らく面積も世界最大と思われる広大な空間の中に、多様なDIYが見られるMakerムーブメントの原点と、世界のMakerムーブメントの高まりを反映した最新形が見られた。DIYから始まり、今は「明日のMade in America」と呼ばれるまでになった、ベイエリアのMaker Faireをレポートする。

Maker Faireの原点であるDIYマインド

Makerムーブメントがここまで注目され、連日ニュースを賑わすようになったのは、急成長するハードウェアの新興企業、スタートアップが続々生まれるようになってからだ。ただ、11年前にベイエリアで最初のMaker Faireが開かれたとき、そこにスタートアップの姿はほとんどなかった。

Maker Faireの発起人デールは、有名なTEDトークWe are Makersの中で、「誰もがMakerであり、作るのはもともと人が持っている本能だ」と語っている。デールが紹介するのはいつも、多くは実用的でない、風変わりな工作物だ。役に立たなくても、他の人には思いつかなかった風変わりなものを彼は賞賛する。

Maker Faire Bay Areaはそういう工作物に満ちていて、会場に入った瞬間に底抜けに楽しい空間になっている。

古いオートバイを改造したドラゴンバイク。 古いオートバイを改造したドラゴンバイク。
オランダのGIJS VAN BONによる、地面に砂でポエムを書いていくマシーン。 オランダのGIJS VAN BONによる、地面に砂でポエムを書いていくマシーン。
この2枚はスチームパンクの世界を作っている人たち。 この2枚はスチームパンクの世界を作っている人たち。

屋外に展示されている大きくて派手な工作物にも、もちろん目を奪われる。しかも、電子工作にとどまらない範囲の広さがある。服飾や溶接などのアナログな工作物は、他の国のMaker Faireではさほど見かけないが、ここBay Areaにはそれらにも大きなスペースが割かれている。

スチームパンクは専用の区画が用意されるほど盛んで、そのエリアに入るとハリーポッターなどの映画に入ったような気分になる。いくつかは機械仕掛けやデジタルな仕掛けがあるもの、技術的に高度なものもあるが、テクノロジーというよりはアート的なセンスが表に出た、他の国のMaker Faireでは目立たないものだ。

さらにベイエリアでは毎年、養蜂/自家製の発酵/石けんづくりなどのためのHomebrewパビリオンがある。エネルギーを盛大に使う巨大工作物と、スローでロハスな両方のDIYが見られるのは、他人に干渉しないヒッピー文化発祥の地、アメリカ西海岸らしい。

手製のピクルスなど、発酵製品を作るHomebrewパビリオンの出展者たち。 手製のピクルスなど、発酵製品を作るHomebrewパビリオンの出展者たち。
ログハウスづくりも、Homebrewパビリオンの中にあった。彼らはトレーラーに乗るログハウスと、Shelterという本を発行している。まさに「大人の隠れ家」である。 ログハウスづくりも、Homebrewパビリオンの中にあった。彼らはトレーラーに乗るログハウスと、Shelterという本を発行している。まさに「大人の隠れ家」である。
金属製のスカルと筐体にピンクのリボン。アメリカのMaker Faireでしか見られないこのロボットは、ブースを持たず場内を走り回っていた。 金属製のスカルと筐体にピンクのリボン。アメリカのMaker Faireでしか見られないこのロボットは、ブースを持たず場内を走り回っていた。
アマチュアラジオのブース。 アマチュアラジオのブース。

Makerのためのスタートアップ、工作機械

もちろん多くのスタートアップがブースを構えている。特徴的なのは消費者家電ではない、工作機械のスタートアップが多く出展されていることだ。

世界のMakerシーンはますます拡大していて、アメリカはその先頭に立っている。Makerの数が増えるにつれて、以前なら買い手の数が少なすぎてビジネスに乗らなかったようなものがスタートアップの対象になりつつある。今や家電量販店にも並ぶようになった3Dプリンタはその好例だ。Maker Faireだけに、コンシューマエレクトロニクスよりも工作機械のスタートアップが目立つ。

DIWIREという製品。太い針金を指定の形に曲げてくれる、ワイヤーベンディングマシン。曲げたワイヤを組み合わせることで、写真の頭部型のような立体物も作れる。 DIWIREという製品。太い針金を指定の形に曲げてくれる、ワイヤーベンディングマシン。曲げたワイヤを組み合わせることで、写真の頭部型のような立体物も作れる。
木材、アルミなどの削り出しを行うCNCルーターも会場内でデモされ、ウクレレのボディを次々に削り出していた。 木材、アルミなどの削り出しを行うCNCルーターも会場内でデモされ、ウクレレのボディを次々に削り出していた。

拡大するMakerシーンが生み出す、Makerのためのサービス業

上記のようなMaker向けツールを開発/販売する形でのエコシステムへの関わり方もあれば、Maker向けのサービス業を手がける形もある。

こちらFabcrossでも紹介したSeeedは、さらにブースを拡大して出展。Seeedは中国への渡航はビザが必要になって難しいアメリカ人向けに、サンフランシスコにも拠点を置いている。

PCBの制作、Makerが発明したツールキットの販売など、Maker向けのサービスをトータルで提供するSeeed。 PCBの制作、Makerが発明したツールキットの販売など、Maker向けのサービスをトータルで提供するSeeed。

Maker向けプロトタイピングツールも、サービス業とツールキットの中間に位置する、Makerムーブメント前にはなかったカテゴリだ。ArduinoやRaspberry Piといったマイコン類から、この連載でも紹介したMakeblock、日本のソニーが開発したMESHなどのプロトタイピングツールも、一つのパビリオンを埋め尽くすほどの多様さで展示されている。

Arduinoの開発環境、ソフトウェア部分などを手がけるArduinoも出展。ファウンダーのMassimo BanziみずからMakerの相談を受けていた。 Arduinoの開発環境、ソフトウェア部分などを手がけるArduinoも出展。ファウンダーのMassimo BanziみずからMakerの相談を受けていた。
Fabcrossでも紹介したESPertのWilliam Hooiも出展。ほかにもArduino互換ボードは数十社集まって一つの島を構成していた。 Fabcrossでも紹介したESPertのWilliam Hooiも出展。ほかにもArduino互換ボードは数十社集まって一つの島を構成していた。
巨大なMakeblockブース。向かいには100年の歴史を持つ知育玩具キットmeccanoがブースを構え、新旧のコントラストを見せていた。 巨大なMakeblockブース。向かいには100年の歴史を持つ知育玩具キットmeccanoがブースを構え、新旧のコントラストを見せていた。
こちらは日本製、SONYのMESHブース。 こちらは日本製、SONYのMESHブース。
コンピュータ歴史博物館は、初期のパーソナルコンピュータをレストアして展示していた。テクノロジー、DIYの歴史がMaker Faireにみごとに合流している。 コンピュータ歴史博物館は、初期のパーソナルコンピュータをレストアして展示していた。テクノロジー、DIYの歴史がMaker Faireにみごとに合流している。

次世代のMakerを生み出すMaker教育

Maker Educationパビリオンの混雑ぶり。 Maker Educationパビリオンの混雑ぶり。

すでに自分で作りたいものを作れるMakerのためだけではなく、子供を次世代のMakerに育てるためのMaker教育についても、巨大なMaker Educationパビリオンができている。MakeblockやESPressoのような「大人も子供も使えるツール」は別パビリオンに展示されていることも多いので、実際にはMaker Faire Bay Areaの多くの場所でMaker教育について意識させられる。

STEM教育に特化した特化学校(institute)も多く出展している。特化学校といっても制度が異なるわけではなく、たとえば東京工業大学の英名はTokyo Institute of Technologyである。 STEM教育に特化した特化学校(institute)も多く出展している。特化学校といっても制度が異なるわけではなく、たとえば東京工業大学の英名はTokyo Institute of Technologyである。
こちらは塾のような形でロボティクスの教育を行うBARNABAS ROBOTICSのブース。 こちらは塾のような形でロボティクスの教育を行うBARNABAS ROBOTICSのブース。
教育パビリオンではないが、科学者に直接質問できるブース。 教育パビリオンではないが、科学者に直接質問できるブース。

拡大しつつあるDIYの全てがここにある

インターネットの普及以後、技術やサービスの発展に伴って、ルーチン化された作業はどんどんコンピュータに接続された機械や、コンピュータそのものが行うようになってきている。

答えがあらかじめわかっている問題を担当する人間よりも、正解があるかわからない新規事業や企画を担当する人の割合が増えてきている。どんな仕事をしていても、例えば看板のデザインや、メールの文章を「考えて、作る」場面が、仕事の中で増えてきている。

「何かを創造する仕事」をする人は世の中のごく一部で、娯楽としてのDIYも限られたものだった時代から、「多くの人が日常的に何かを試行錯誤している」時代に、世の中はゆっくりとシフトしつつある。その中で趣味と仕事との境界線や、アイデアと手を動かすことの境界線など、これまでの考え方が変わりつつある。オバマ大統領は、2014年からホワイトハウスでMaker Faireを開催し、「今日のDIYは、明日のMade in America」と呼んでいる。

Maker Faire Bay Areaは、作る人たちの、作る人たちによる、作る人たちのためのイベントとして、年々多様になり規模も大きくなってきていて、一つ一つの出展物もよりエクストリーム(先鋭的)になりつつある。工作機械のスタートアップやMaker教育は、そうした時代の変化を反映したものだし、スチームパンクや無線マニアのブースは変わらぬ価値を表している。

ここにはDIYのすべてがある。

告知

8月6~7日、ついにMaker Faire Tokyoが開催されます。高須もチームラボMake部のブースに出展しています。また、8月7日の夜、Maker Faire Tokyoの終了後に、ギークのギークによるギークのためのダンスパーティー、秋葉原メイカーズ倶楽部と、小規模な展示イベントのニコニコ技術部東京(NT東京)秋葉原MOGRAにて開催する予定です。ぜひ会場でお会いしましょう。

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