アジアのMakers by 高須正和
深センの公板/公模 700円の粗悪アクションカメラに見るイノベーション
「世界の工場」と呼ばれる中国の深センでは、アクションカメラや携帯電話が数百円程度で販売されている。経済大国となった中国はもう人件費の安さで勝負する国ではないにも関わらず、流行したガジェットの価格はどんどん下がるエコシステムが構築されている。今、そのエコシステムは世界のMakersに対して新たなムーブメントをもたらす可能性を示している。深センのエコシステムについてレポートする。
「世界の工場」から発明のラボに
「Makersのハリウッド」「ハードウェアの首都」「世界の工場」などと呼ばれる深センや近隣都市は、世界中の製造業が集まる場所だ。多くの製造業が集積され、その製造業を支えるエコシステムができている。
工業は一瞬のうちに、優れた少数の人間が発展させるものではなく、数十年のスパンでだんだんと伝播されていくものだ。最初は先進国からすべて運ばれ、指導されていたテクノロジーはだんだんと現地に根付いていき、そのエコシステムを背景に地元の起業家が生まれ、新製品や新発明なども生まれてきている。
働く技師を育てる工業高校、工作機械やベルトコンベアを修理できる地元の小企業、そういう企業を支える部品メーカーや部品市場、箱詰めの箱やマニュアルなどを印刷する印刷所、働くデザイナーを輩出する美術学校など……。
もともとは豊富な人口と安い給与を売りに外国人が経営する工場の場所だった深センは、1980年代後半からの30年近い発展の歴史を経て、その設計/製造能力を売りに世界中のハードウェアのアイデアを具現化する場所になった。
HAXというアメリカ発のハードウェアインキュベータは、アメリカ西海岸でアイデアと投資を集め、深センのラボで開発をする。ビジネスの中心地はシリコンバレーだが、ハードウェア開発のラボは深センのエコシステムを必要としている。
700円のアクションカメラが売られている深セン
筆者は年に数度、深センのエコシステムを見学に行くニコニコ技術部深セン観察会というイベントを行っている。現地集合現地解散、参加者は全員レポートをブログなどで公開することだけが条件のボランティアイベントである。
2016年8月15~17日に行われた今回の観察会では、深センの巨大な電気街の中にあるビル国際電子城で700円のアクションカメラが売られているのを見た。
国際電子城は粗悪品やコピー品含めてとにかく安い電子機器が売られている場所で、東南アジアや中東、アフリカといった開発途上国のバイヤーたちが買い付けに来る場所だ。
GoProで有名になったアクションカメラは、「広角で撮りっぱなしにできる(ずっとファインダーをのぞいてフレーミングする必要がない)、防水ケースなどでタフに扱えるビデオカメラ」というジャンルの新しい製品で、深センで多くの模倣品や改良品が生まれている。
「広角」と「タフ」という2つの要素がそれまでのビデオカメラとの違いだが、「観光中に自撮り棒につけて一定間隔で写真を撮り続ける」みたいな新しい用途も生み出した。その用途であれば液晶ディスプレイはあったほうがいい。
他にも、Wi-Fi機能をつけたり、色を変えたり、単純に二級品の部品を使って安く売り出すなど、そっくり似たようなアクションカメラ群の中に、数え切れないバリエーションが生まれている。