アジアのMakers by 高須正和
世界の工場・深センのプロトタイピング環境——HWTrekのAsia Innovation Tour世界のサプライチェーンレポート
台湾で創業したHWTrekは、中国語がネイティブでしゃべれて西欧のビジネスルールにも合わせられるという特性を生かして、世界のスタートアップと主に深センの製造業者をつなぐビジネスをしている。同社は製造業ネットワークをスタートアップに紹介するツアーを年に2回開催している。ツアーの様子と、サプライチェーンのうち試作や小ロット段階での製造業者を紹介する。
スタートアップのその先へHWTrek
HWTrekは台湾に本拠を置くMakersの支援企業で、以下の3つをつなぐネットワークを作り、マッチングすることをビジネスにしている。
- スタートアップ:アイデアや製品の種はあるが、まだ市場に製品を届けられない
- 製造業者:スタートアップの製品を生産する能力がある
- エキスパート:スタートアップの問題を解決できるスペシャリストだが、自分で製品を作るわけではない
スタートアップといっても起業したばかりというより、ある程度の資金調達に成功して「いよいよきちんと大量生産して販売して利益を出さなければ」というぐらいの段階を対象にしている。かつてこの連載で、クラウドファンディングだとまだ同人誌みたいな段階、というテーマを扱ったが、その次の段階だ。HWTrekはそういう「アイデアと資金はあるが自分たちだけでは生産ができない」というスタートアップに対して、彼らの課題を解決できるエキスパート(コンサルタントやフリーランスエンジニア、設計者など)と製造業者をマッチングするほか、独自のプロジェクト管理ツールを提供するなど、「きちんとした製品」を作るためのサポートを行う。その際に製造業者から払われる営業費がHWTrekの活動資金になっていて、すでに多くのマッチングをしている。
ここで作れないものはない 深センのサプライチェーン
今回、彼らがサプライチェーンをスタートアップに案内するツアーに参加し、深センが世界の工場と呼ばれている様子を目の当たりにした。3日間で7つのさまざま工程の工場を見たが、以下の点が共通している。
- どの製造業者も世界一流レベルの設計、生産、問題解決能力を有している
- 融通が利いてレスポンスが早い
- 工場入り口でのホールボディカウンターによる持ち物チェックなど、機密保持についても一流レベル
- 契約書も英語で結ぶことができる
- おそらく価格帯は、深センでは高い方だが、無駄なところにコストをかけたり、ブランド名で実質の伴わない高い価格を付けているという感じはない
- 現在の取引先には、日本や欧米の有名企業を含む、名だたるメーカーが並んでいる
早い/安いことは深センではある程度あたりまえなので、クオリティや納期等の面で信頼できること、スタートアップのあいまいな注文に対してフレキシブルに対応できることが特徴だと感じた。今回のレポートでは「プロトタイプから製品化まで」の、インキュベータと切削加工会社を紹介する。
プロトタイプから製品化へShenzhen Valley Ventures
スタートアップは「世界のどこにもないアイデア」を製品化する。つまり量産会社から見ると「世界のどこにもない製品を作る」ことなので、どれだけ経験がある量産会社から見てもチャレンジングな話だ。実際に名だたるスタートアップが手掛けた多くの製品が量産段階で失敗しているのは、fabcrossのイベントでも触れたとおりだ。量産のプロがサポートしてくれるのは、スタートアップにとってありがたい。
ツアー初日の最後に、深センのインキュベータShenzhen Valley Venturesが運営するMakerスペースを訪問した。Shenzhen Valley Venturesは、FOXCONNみたいな超大手の製造企業であるZOWEEが運営しているインキュベータで、今回の参加者のようなスタートアップをサポートして成長させることをビジネスにしている。深センの他、シリコンバレーにもオフィスがあって、中国国内の会社にアメリカのリソースを紹介して成長させる、ちょうどHAX(サンフランシスコ発で深センにラボがある)の逆のようなビジネスモデルといえる。
もちろん、HAXが中国の会社にも投資しているように、Shenzhen Valley Venturesもアメリカほか世界のスタートアップに投資していて、アメリカと中国の比率はちょうど半々だそうだ。6カ月ぐらいのスパンでスタートアップをインキュベートしていて、2週間前にオープンしたばかりのこのラボを、すでに10のスタートアップが利用している。
できたばかりのこのMakerスペースには、スタートアップに欠けている量産のための設計や検査などのアドバイスができるエンジニアが常駐し、プレゼン動画にあるとおり「趣味ではなく、実際にビジネスにしようとするMakersのための場所」を提供している。プロ向けということだと日本ではDMM.make AKIBAが近いが、深センらしく小規模な生産ラインまでMakerスペースの中に備える徹底ぶりだ。