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アジアのMakers by 高須正和

バニーが語る「なぜハードウェアハッキングが好きか、そしてハードウェアハッカーになるためのガイド」

電子情報通信学会でのイベントでも、多くのファンが詰めかけた。「Chumby」、「Novena」といったハードウェアを前に笑顔のバニー・ファン。

「MIT+深圳プロジェクトの紹介」、「量産準備完了とはどういうことか」、「ハードウェアスタートアップを取り巻く製造以外の仕事、販売価格の決め方」と、3回にわたって伝えてきたMITメディアラボ+深圳プロジェクトのレポートもこれで締めくくりになる。最後に紹介するのは、このプロジェクトを主導するアンドリュー“バニー”ファンが「ハードウェアをハックすること」を語った講演だ。
彼の書籍「ハードウェアハッカー」の発刊後、電子情報通信学会でのイベントで日本に招聘(しょうへい)されたバニーは、読者に向けて東大のイベントでスピーチを行った。「なぜ僕はハードウェアをハッキングが好きか(Why I Like Hardware Hacking
(and if you haven't tried it, here's a few tips on getting started!))」というタイトルの講演は、どのハードウェアエンジニアにも響くものだった。

「MIT+深圳プロジェクトの紹介」
「量産準備完了とはどういうことか」
「ハードウェアスタートアップを取り巻く製造以外の仕事、販売価格の決め方」

ハードウェアのオントロジー

「スマホとクラウドがすごく進化したから、ハードウェアのハッキングは必要ない、という人もいる。でもそれは誤りだ。なぜなら、人間そのものはハードウェアだから、最終的に影響を及ぼすにはハードウェアが必要になる。ものを掴む、食べさせるなどの行為にはかならずハードウェアが必要になるし、人間そのものが生まれるには、精子と卵子というハードウェアが物理的に出会うことが必要だ。コンピューターいじりに限定しても、ICに紫外線を当ててセキュリティビットを読むことなど、ハードウェアを直接いじることで可能性は広がる。そういうことから僕は、人間と機械の間のインターフェースにずっと興味がある」と、ハードウェアの必要性について語り出したバニーは、図表を用いてハードウェアが果たす役割を整理する。

ハードウェアのオントロジー ハードウェアのオントロジー

「人間はハードウェアなので、人間に何か影響を及ぼそうと思うと、最終的には何かのハードウェアを介さなければならない。だからハードウェアはパワフルだ。
そしてコンピューターを中心にしたハードウェアはどれも80%ぐらいは同じ構造でできている。Raspberry PiもArduinoもPCも、構造は同じものだ。僕が作ったNeTVという、テレビに接続してTwitterなどをテレビ画面に重ねて映すハードウェアも、マイクロソフトのKinectも同じCPUを使っている。マザーボードを見るとよく似ている。そうしたコモディティ化されたハードウェアの性格を決定的に決めるのは、このオントロジー(存在証明)のどの場所に置くか、だ。ハードウェアは、『正しい場所』に置くことに価値がある。

(上の図で)整理すると、1.他のコンピューター(Other Computers)、2.物理的なもの(Physical Matter)、3.社会(Society)のどれか、または複数が重なるところに置くことになる。他のコンピューターと物理的なものをつなぐものは、センサーやIoTと呼ばれる。コンピューターと社会をつなぐものはAIや機械学習と呼ばれる。物理的なものと社会をつなぐものはロボティクスだ。ドローンや自動運転もこれに含まれる。僕が所属しているMITメディアラボの研究は90%が人間とコンピューターをつなぐものになる。僕がサポートしているハードウェアアクセラレーターHAXのハードウェアは、70%がコンピューターに新しい種類のセンサーやアクチュエーターをつなげるものだ。

ハードウェアをこのオントロジーの良い場所に置く、たとえば決済端末のSquareは、社会とコンピューターと他のコンピューターをうまくつなぐ場所にシンプルなハードウェアを置いたことで、大成功した」

東大でのイベントに先立ってサイン会が行われた。長年のファンであるVRエバァンジェリストのGOROmanさんも、バニーの初著書「Hacking a XBOX」を持ってイベントに駆けつけた。 東大でのイベントに先立ってサイン会が行われた。長年のファンであるVRエバァンジェリストのGOROmanさんも、バニーの初著書「Hacking a XBOX」を持ってイベントに駆けつけた。

ハードウェアハッキングの進化と楽しさ

ハードウェア開発の有用性について明確に説明したあと、バニーの話はより彼自身のパーソナルなモチベーションにつながっていく。

「これまで紹介してきたように、ハードウェアはパワフルだ。でも、そんなパワフルなハードウェアを開発することが、あまりポピュラーにならない訳は、ハードウェアが『めんどうくさい』からだ。ビットでできたソフトウェアと違って、ハードウェアはアトムでできている。アトムは必ず誰かに所有されている。やりとりにはお金が必要になる。アトムは完全ではない。データのソフトウェアと違って、君のiPhoneには固有の傷がついている。そして、アトムは勝手に動いてくれない。倉庫をどうする、輸送はどうする、破棄はどうするかを、常に考え続けなきゃならない。

深圳の、珠江デルタの価値はその面倒くさいハードウェアを扱える人たちが多く集積していて、エコシステムができていることだ。古い工場で動いているスクラップ同様の機械も、僕らみたいなスタートアップが安く使うには充分なことが多い。長い期間、多くの投資が行われたことによって、イノベーションのトリクルダウンが起きている。

また、面倒くさいハードウェアも、一方でいいこともある。ソフトウェアと違ってすべてのハードウェアは物理法則で動いている。物理法則は不変なので、僕は高校や大学の頃に習ったファラデーの法則、マクスウェル方程式などで今も仕事をしている。使っているソフトウェア、外装を設計するSOLIDWORKSにしても基板を設計するAtrium Designerにしても、最初のスタートアップに加わった時からほとんど変わらない。その間に、いったい何種類のプログラミング言語が出てきて学び直さなければならなかったか、名前だけでも思い出せないほどだ! ハードウェアハッキングはハードだが、ソフトウェアに比べて学び直しは少ない。」

ハードウェアのハッキングは身近になっている

最後にバニーは、ハードウェアハッキングを始めるためのTipsを語ってくれた。

ハードウェアハッキングの始め方 ハードウェアハッキングの始め方

「この写真は自分の作業机だ。こうしたものをとりあえず一式そろえるのは、ビックリするぐらい安くなっている。大学や専門学校のゴミ箱を探したり、売ります買いますコーナーで見つけたりできる。仮に見つかったツールが壊れていても、そのツールを直す過程でさらに深く学ぶことができる。ツールを見つける、ツールを直す、ツールを使うというサイクルはとても効果的だ。

ハッキングの技術そのものを、僕は分解、リバースエンジニアリングから多く学んできた。いまも自分のWebサイトに基板の写真を上げて、そのハードウェアが何か当てるクイズを続けているのは、リバースエンジニアリングの文化を広めたいからだ。何かガジェットを買い、リバースエンジニアリングするときに、壊すことを恐れてはいけない。自分はいつも同じガジェットを3個買うようにしている。1.戻せないぐらいまで分解するものと、2.いろいろといじくり回すもの、3.初期の状態で取っておいて、いじったときに比較するためのもの、だ。作り上げるときも同じで、同じものを改善しながらいくつも作ることになる。80%のICT機器は同じだけど、何に向けて作るかで違う。

目的を果たすための、エンジニアリングの試作が3〜5回ぐらい、目的を決めてからもっと良いものにするためのデザインのための試作が5〜10回ぐらい、そしてそのあと製造のためのプロダクションの試作が5〜20回ぐらい。トータルで13〜35回ぐらいの試作を、製造開始の前に繰り返す。そうやって量産前試作になったものは、25個ぐらいを製造して、10個は壊しても構わないつもりにすること。イベントでの貸し出しや破壊試験などのためだ」

バニーの講演は、以下の言葉で終わり、会場に集まったハードウェアハッカーから大きな拍手が送られた。

「僕がハードウェアハッキングを続けるのは、自分にどんなことができるのかを再定義していくからだ。Happy Hacking」

会場に集まったファンと一緒に、書籍「ハードウェアハッカー」ほか、過去のバニーが手がけたハードウェアを手に記念撮影。 会場に集まったファンと一緒に、書籍「ハードウェアハッカー」ほか、過去のバニーが手がけたハードウェアを手に記念撮影。

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