アジアのMakers by 高須正和
分解は設計者との対話 楽しい分解のための5つのTips
5月21日、ハードウェア分解の愛好家を集めてそれぞれの経験をシェアするために開催されたオンラインイベント「分解のススメ」は150人を超える参加者を集めた。イベントの実況をまとめたTogetterも好調だ。イベントのアーカイブ録画も公開されているが、本記事ではイベント内での発表からまとめた、分解を楽しむための5つのTipsを紹介しよう。
オンラインイベント「分解のススメ」は、筆者と、藤岡淳一氏(ジェネシスホールディングス代表取締役社長)の2人が共同で発起人をしているニコ技深圳コミュニティが主催したものだ。身内のクチコミのみで宣伝もしなかった無料イベントだが、告知して4日後にはPeatixでの申し込みが100に達し、当日のYoutube Live配信を含めて150人以上が視聴した。
イベントではリバースエンジニアリングのエバンジェリストとも言えるMITのアンドリュー“バニー”ファン著『ハードウェアハッカー』の翻訳をした筆者が前説を務め、翻訳にご協力いただいた金沢大学の秋田純一教授(理工研究域電子情報通信学系 インタフェースデバイス研究室)、『「100円ショップ」のガジェットを分解してみる!』の著者山崎雅夫 (ThousanDIY)さん、中華ガジェットの分解ブログを書いている鈴木涼太さんら、分解ネタでは有名な各氏が登壇した。
各氏の発表内容に共通するのがこの5つのTipsだ。
- ハードウェアは同じものを3個買おう
- 分解は家庭にあるものでできる
- 特別なものでなくても分解は楽しい
- 1つでなくさまざまな製品を見よう
- レポートを書くことを頭に置いて分解しよう
各氏の発表を振り返りながら、ひとつずつ解説していこう。
1. ハードウェアは同じものを3個買おう
『ハードウェアハッカー』ではハードウェア分解の魅力がふんだんに述べられている。「エンジニアリングは創造的な行為、リバースエンジニアリングは学習的な行為」と語る著者のバニー・ファンは、電子回路については大学よりも分解から学んだ方が多いと語っている。
その中でも登壇者全員が同意したのは、「分解対象のハードウェアは3個買うといい」。
- 1つは元に戻せなくなるまで分解する
- 1つはいじりまわす
- 1つはなるべく初期設定のままでとっておいて、いじったものと比較する
というTipsだ。
2. 分解は家庭にあるものでできる
秋田先生のトーク「揚げて炙ってわかる半導体」では、さまざまなマイコンチップや半導体を家庭にあるもので分解する方法が紹介された。
マイコンチップの分解では通常、濃硫酸や発煙硝酸などの薬品を使って、チップの表面を被っている黒いパッケージの樹脂を溶かす。
ところが、秋田先生はここで「ホームセンターなどで売っている、バーベキューの火起こし用バーナーであぶり、その後つまようじなどでつつけば樹脂を除去できる」「基板からマイコンチップを外すには、260度ぐらいで基板ごと揚げれば、ハンダが落ちてマイコンチップを取り出せる」というTipsを紹介した。
家庭にあるものだけでマイコンチップを分解し、そしてスマホのカメラを使って、チップの概略をマクロ撮影してしまう。チップ上の詳しいパターンの観察は顕微鏡が必要だが、数千円で売っているものでも十分だ。
3. 特別なものでなくても分解は楽しい
秋田先生が紹介したチップの分解で説明された多くのチップは、よく知られている有名なチップだ。それでも多くのチップを分解すると、チップの世代が新しくなるほど回路を構成する配線パターンが細くなっていくことからムーアの法則を体験として感じられるなど、さまざまな知見を得られる。
さらに、100円ショップの製品分解を紹介した山崎さんは、「ほとんどの製品で、量産品はよくできているなあと感動する」と分解の面白さを紹介した。
4. 1つでなくさまざまな製品を見よう
イベント視聴者からは、「どうやって製品に使われている部品を特定するのか」というコツについての質問が多かったが、山崎さんはじめどの登壇者も共通して話していたのは「たくさんの製品を見ていると、定番のチップが見えてくる」という視点だ。同じ機能をもった別々の製品をいくつも分解していると、Bluetoothチップならこれ、USBならこれといった、定番のチップが見つかる。
5. レポートを書くことを頭に置いて分解しよう
Makerにとって、シェアすることは作ることの一部だが、分解も同じで、シェアすることで新しい分解につながる。最後の登壇者となった鈴木涼太さんは、中華アクションカメラの分解結果をブログに(もちろん日本語で)アップしておいたところ、同じチップを使ったデジタル顕微鏡を分解しているベルギー人のMakerから、ファームウェアの内容について教えてもらえたという。
どの登壇者も分解事例をブログなどに書いてシェアすることで、読者からより深い情報がもたらされる、知人から分解対象になりそうなガジェットやチップをもらう、さらには書籍の執筆などの新しい出会いにつながっている。
分解は設計者との対話
この日全員がうなずいたのは、鈴木さんのスライドのまとめとして書かれた「ガジェットの分解は設計者との隠れたコミュニケーション手段!」だ。
どの登壇者も、よく見るチップを中国での基板製造には活用するなど、分解結果を自分のプロジェクトに生かしている。分解することで、ものから伝わってくる情報は多い。作ることと分解することは、たしかにとても近いモチベーションなのかもしれない。登壇者の3人は、まず子どもの頃に分解することから機械に興味を持ち、次に改造、そして自分の作品作りを始めている。
分解についてシェアする情報が増え、リバースエンジニアリングが文化になることは、Maker文化をより発展させることにつながっている。