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美術史上初の工芸作品「レースの地球儀」完成!

手工芸×エンジニアリングで「ありえない」を形にする

レースで表現する独特の透かし

「レースの地球儀」最大の見せ場は、独特の透かしにある。編まれたレース糸から生まれる陰影の美しさが作品としての価値を高めている。

「大陸に無用な濃淡があると、海や湖との区別ができず、大陸に見えません。合わせてみて、密度の濃いところは花の数を間引いたり、逆に薄いところは足したり。全体のバランスを見ながら何度もやりかえていきました」(広瀬さん) 

最終的にボツになった南米大陸。確かにレースの密度が濃い。 最終的にボツになった南米大陸。確かにレースの密度が濃い。

「日本列島も大陸から見れば小さくて表現しづらい。最初は桜をモチーフにしようと思ったんですが、小さすぎてどうにもならない。それでも島国であることがわかるように表現しました。実は、日本だけは他の国より細い糸で編んでいます。なんとか形状は出せたかな、と思います」(広瀬さん)

地図を見ながら、レース編みによる日本列島を考案。 地図を見ながら、レース編みによる日本列島を考案。

「全体の透かしは保ちつつ、陸地と海では濃淡が違う。そんな作品にしたいと思いました。当初は陸地部分の下にネット編みが来ないよう、陸地は陸地だけで抜こうとしました。ただこのやり方だと強度とのバランスが崩れて球体に見えません。全体をネット編みで作り、そこに陸地部分をのせる手法に切り替えました」(広瀬さん)

完成した日本列島。なんとか北海道、本州、四国、九州を表現した。 完成した日本列島。なんとか北海道、本州、四国、九州を表現した。

とまどいの台座モデリング

地球部分のめどがたつにつれ、台座製作も急ピッチで進められる。エンジニアリングのモデラーとして、編集部は若い新人女性を起用する方針にした。レースという素材にマッチングした女性目線での台座に期待したからだ。

同時に作品作りを通して新人がどんな成長をとげるか、という視点もあった。起用されたのは宇田川真希さん。ふだんは3D CADで工業部品のモデリングなどを行っている。1点ものの作品作りは未知の体験だ。

「お話をもらっとき、私でいいのかな、と思いました。作品作りについては知識も経験もないですから。加えて、自分ではあまり女の子らしいとも思っていないので、その点でもだいじょうぶかな、と。

いただいた広瀬さんのデザインをもとに、機能も果たしつつ全体の調和を崩さない台座を考えました。街で地球儀を見たり、美術史の本を眺めたり、いろいろなものを参考にしました。台座の曲線も、フリーハンドだったら描けるのですが、CAD上は数値を入れなくてはならないので、どこにどの寸法を入れたら形ができるのか、悩みました。そのへんは手探りでした。道具はデジタルですが、やっていることはアナログな感じでしたね」(宇田川さん)

不安の中で進む作業。彼女はどんな成長を見せるのか? 

モデリングされた台座部分。独特のカーブがクラシカルな雰囲気を出している。 モデリングされた台座部分。独特のカーブがクラシカルな雰囲気を出している。
実際のカーブ。見た目はモデリング通りだが、仕上げは手加工だった。 実際のカーブ。見た目はモデリング通りだが、仕上げは手加工だった。

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