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美術史上初の工芸作品「レースの地球儀」完成!

手工芸×エンジニアリングで「ありえない」を形にする

経験値が成長を促す

編集部としては彼女の不安は当初から織り込み済みだった。デザインに関してはサポートが前提になる。不安なまま作っている曲線は不自然に見える。その場合はなんとなくデザインしているのか、こだわりがあるのにどう表現すればいいのか分からないのか、を見極める。その上で編集部の意図を伝える。

「けっこうダメ出しを受けました。見た目がダサい、これでは機能が果たせない、実際には作れない、等々。途中、何度も自分には無理なのではないかと思いました。でもやっていくうちに構造が理解できるようになり、だんだんコツがつかめてきました。最初はなんとなくのものが、しっかりイメージできるようになったんです。少しずつ自信が持てるようになりました」(宇田川さん)

こうしてできた3Dモデリング図を広瀬さんに開示。反応は?

「まったく思い描いていた通りのものがでてきたので、何の不安もありませんでした。上下を支えるアーチの模様も、下の台座もほぼイメージの通りだったし。ずいぶん苦労した、というのはあとから聞きました」(広瀬さん)

彼女の確かな成長がそこにあった。

台座からのびた、地球儀を外から支えるアーチの先端には、宇田川さんがイメージした渦巻き状の曲線がデザインされている。当初は金属の型抜きを予定していたが、紆余曲折を経て、木工となった。発注先は富山県高岡市の嶋モデリング。原型やモックアップなどを製作している会社だ。最後の最後、微妙な曲線は、手作業で仕上げた。アナログの技が映える。 

職人の匠の技も加わった、優美な台座の曲線が、レースの繊細さにマッチしている。 職人の匠の技も加わった、優美な台座の曲線が、レースの繊細さにマッチしている。

プロジェクトを貫く大問題

地球と台座が見えて来た。いよいよ克服すべき最大の課題に取り組むときだ。「レースの地球儀」という中空立体構造をどう台座に取り付けるか? 北極と南極を結ぶ線でレースの中に軸をさせば、簡単に解決できる課題だが、透かしが命のこの作品では、支柱が真ん中に見えてはいかにも興ざめだ。宙に浮いてみえてこそ、驚きがある。そのためには頂点の2点で支持し、かつ回転しなければならない。どんな構造にすべきなのか? エンジニア吉田真樹さんの出番だ。

「お話をいただいたときには、さてどうしたものかと困惑しました。回転のギミックを考えると、地球と台座の接触部がごつごつした形状になります。そこで、完成した地球を外から固定するのではなくて、完成前にピンをつけてしまえばいけるんじゃないか、と思いつきました。図であらわすと、斜線が台座の支柱で黒いところがピンです。その中に自己潤滑性があるプラスチックが入っています。赤の斜線部分です。ここにピンを通して、抜けないように上で留めてあります。穴より少し長いので受け止めにもなっています」(吉田さん)

こうして意図された2点支持の構造は、見た目は美しいが、作るのは大変だ。台座のデザインも修正が必要になる。レースの地球も頂点を貫く軸を中心に完全な球形でなくてはならない。真ん中に支柱は作らない、というこだわりどころのために各人が奮闘した。

完成間近に予想しない事態が起こった。それは何か? 

台座の支柱とレースの地球との接合部分(上)。穴に潤滑性のあるプラスチックを入れてあるのがポイント。 台座の支柱とレースの地球との接合部分(上)。穴に潤滑性のあるプラスチックを入れてあるのがポイント。
できあがった支柱。北極と南極の頂点で地球儀を支える構造になっている。 できあがった支柱。北極と南極の頂点で地球儀を支える構造になっている。

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