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美術史上初の工芸作品「レースの地球儀」完成!

手工芸×エンジニアリングで「ありえない」を形にする

レジン(紫外線硬化樹脂)で落とし穴にはまる

台座も完成し、支える構造も確立できた。あとはレースで地球を編み上げ、レジンで固め、台座につければ完成だ。透明なプラスチックの半球にレースを貼付ける。これにレジン(紫外線硬化樹脂)をふきつけ、レースが固まったらプラスチックの半球をはずす。予定通り作業を進めたが、まったく予想できない事態が起きた。

「色が違うんです。レジンが糸にしみこむと薄く黄色がかって、レースの鮮やかな白が消えてしまいました。レジンの種類を変え、塗り方や紫外線への当て方を工夫し、いろいろ試しましたが、どうしても白くならない。ショックで呆然となりました。

そもそもレジンで固めればレースの編み物でも強度のある球体が作れるはずというのが話の前提でしたから。急遽、編み方でなんとか強度が出せないか、検討したのですが、直径30cmのものはできそうにありません。最終的には、レジンで固めた後、透明のレジンに白の顔料を溶かしたものを重ね塗りすることになりました。

それでも、完全には解決できませんでしたね。いくら白を塗ってもレースの白を再現するには至りませんでした。今、見てもちょっと悔しいですね」(広瀬さん) 

結果的に海の部分は大陸ほど白く見えない。レジンがしみると白い糸もこうなる。 結果的に海の部分は大陸ほど白く見えない。レジンがしみると白い糸もこうなる。
白の塗料を重ね塗りした直後。乾くとレースの白とは異なる色になってしまった。 白の塗料を重ね塗りした直後。乾くとレースの白とは異なる色になってしまった。

完成。そしてさらに続くもの作りの道

それでも今年6月。レースの地球儀は完成した。問題点は残るにせよ、世の中にない、手工芸とエンジニアリングが融合した、驚きの構造と美しさのある見事な作品が生まれた。作品を前に3人に感想をたずねた。

「貴重な経験をさせていただきました。自分の未熟さも痛感しました。広瀬さんにイメージ通りだといってもらえたことがうれしかったです」(宇田川さん)

「できあがったものを見れば、やはり宙に浮いている感じがいいですね。2点でとめることができてほんとによかったと改めて思います。苦労のしがいがありました」(吉田さん)

「なるべく多くの方に見ていただき、感動してもらえればうれしいです。ただ、自分の中ではもっと何かできなかっただろうか、あらためて考えてしまいます。今まで1000枚以上編み物作品作ってきましたが、これで満足、完璧という作品はありません」

3人のコラボは終わった貴重な体験は各々の糧となっていくことだろう。特に広瀬さんの言葉は印象的だ。

喜劇王チャップリンは「あなたのベスト作は何ですか?」と聞かれるたびにこう答えたという。「次回作だよ」。決して映画に限らない。ものづくりを志す人間は、常に次の作品がベストになるよう、心がけねばならない。それこそがすばらしいものを作る唯一の道なのだから。 

作品を前にポーズをとる3人。それぞれに感慨深げだ。 作品を前にポーズをとる3人。それぞれに感慨深げだ。

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