頭の悪いメカ by 藤原麻里菜
ベンツに乗りながらゴキジェットを噴射してくれる恋人が完成しました
私は友達もほとんどおらず、恋人もいないので、一人暮らしの家でじっとしていることが多いです。一人暮らしを始めた当初は、むなしさを紛らわそうと川に行って魚や鳥に話しかけたり必死でしたが、今はもう慣れて家でじっとしていられるようになりました。じっと。ただ、じっとしています。
そんな私のじっとするタイムを邪魔してくるのが虫です。夏場になるとデカイ虫がカサカサ……と動く気配がします。泣き叫びながらゴキジェットを噴射したり、スパイ映画みたいに壁沿いを静かに歩いて出て来た瞬間に噴射したりしているけれど、次の瞬間、むなしさを感じます。
一人でなにやってんだろ。って、思ってしまうのです。
人という字は人と人とが支え合ってできている。と、金八先生は言っていました。人間は、一人では生きていけないというすてきな話……いや、ちょっと待って。
よく見てみると、左の人は右の人に負担を掛けすぎではないでしょうか。左がちゃんと自立すれば右の負担が減るはずです。なにしてんだ左! ちゃんと立て! いや、もしかしたら左は横になりたいだけなのに、右がそれを邪魔しているだけかもしれない。怖……。
……こういう風に屁理屈しか言わないから私を支えてくれる人は誰も現れず、虫が出た時もゴキジェットを持って一人で右往左往するしかできないのです。本当は、誰か頼れる人を見つけて助けてほしいのに。私だって支えられたいのに……。
ムシ退治ロボを作る
同棲しているカップルいわく、デカイ虫がでたら彼氏の方が退治するそうです。モテる女いわく、デカイ虫が出たらとりあえず良い感じになっている人を部屋に呼び出すそうです。支えられてんなお前ら……。人に支えられてんな……。
支えてくれる人を見つけるのはなかなか骨の折れる作業なので、支えてくれるロボットを作ろうと思います。「ムシ退治ロボ」です。私の理想としては、イケてるメンズが車に乗ってやってきて、「こんな虫くらいで呼ぶなよ(笑)」「だって怖かったんだもん(涙)」みたいなやりとりをした後に、メンズがスマートに虫を処理してくれる……といった流れがいいです。
この流れを完璧にこなしてくれるロボットを作れるように設計図を書いてみると、
こうなりました。
ということで、Amazonでベンツを買いました。3000円だった。ベンツって意外と安いんですね。
これは、子どもが乗って親が後ろから押してあげるタイプのベンツなので、エンジンが搭載されていません。なので、これを電動に改造していこうと思います。
「ギヤドモーター」と呼ばれるモーターをベンツの後輪とくっつけて固定します。ギヤドモーターというのは、その名の通りギヤを内蔵しているモーターです。ミニ四駆とかに使われているモーターはギュインギュイン動きますが、ギヤドモーターはギヤによって回転数を落としているので、遅くてトルク(ねじりの強さ)が高いモーターです。
そんなギヤドモーターの先端に、ラジコンなどに使われている小さなタイヤを付けました。モーターが回転すると、タイヤが押し付けられているベンツの後輪が動く仕組みになっています。
このベンツにふさわしいメンズを乗せて、モーターをバッテリーにつないでみると……。
ブイーン……。
ブイーンブイーン……。
イカしすぎではないでしょうか。我が子の運動会に来た親のように、パシャパシャと写真を撮ってしまいます。かわいい。かわいい。なんかよく分かんないけど、ベンツに乗って走り回っている人形ってかわいい……。
メンズ部分は完璧にできました。ということで次は、虫を退治する部分を作っていきましょう。ゴキジェットを自動で噴射できるように、サーボモーターという回転角度を制御できるモーターを良い感じに設置します。サーボモーターが動いて、ゴキジェットのレバーを押す仕組みです。
ギヤドモーターとサーボモーターをArduinoという小さな基板で制御できるよう、プログラムを入れたら完成です。
ムシ退治ロボの完成
真っ赤なベンツに乗るのは、
イカしたメンズと、
ゴキジェットとバルサン。
これが、ムシ退治ロボだ!
ベンツのかっこよさを適当に組んだ木材とガムテープが邪魔している気もしなくもないですが、これを使えば、もうむなしい気持ちにならなくて済むはずなのです。
さっそく使ってみよう
そうこうしているうちに、虫が出ました。
「虫が出たんだけど(涙)」と電話する小芝居をしつつ、
マシーンの電源を入れます。
本当は、「おーい」って呼んだり、LINEでメッセージを送ったりすることでマシーンを起動させたかったのですが、そんな技術なかったのでとりあえず虫が出たらコンセントにプラグを挿すところから始めます。アナログが一番だからさ。
電源を入れると、
ブーンとやってきます。
赤いベンツに乗った男が、ブーンと……。
そして、
満面の笑みでゴキジェットを噴射しながら走っていきます。
あれ、なんか、すげえ、怖いですね。
ゴキジェットなしで走り回っていたときはあんなにもかわいかったのに、なぜか今はとても猟奇的に見えてきます。さわやかな白い歯が今はとても怖いです。
いや、しかし、写真で分かる通りとても力強くてすてきな男性です。ちゅうちょせずにガンガン、ゴキジェットを噴射してきます。怖くない。彼は立ち向かっているだけなのだ。
撮影した後に気付きましたが、カメラの奥にあるリュックがベトベトになっていました。
触れていませんでしたが、特に虫を検知する機能とか、そういうセンサー的なものは付いておりません。そんな細かいことはやりません。男らしく、豪快にゴキジェットを噴射する。ただそれだけです。それでも虫にダメージを与えられない場合は、
最終的にバルサンをたいてくれます。
おわりに
「虫が出たんだけど(涙)」このワガママに対して、ベンツに乗ってやってきて、無言で退治してくれる。そんな最高なロボットを作り上げてしまいました。ただ、同じ部屋に居続けたら、喉が焼けるように痛くなってずっと気分が悪かったです。これが恋の病っていうやつでしょうか……。
ちなみにお人形が気に入ってしまって、ずっと一緒にいます。そろそろ私も終わりに近づいてる気がします。