デジタル工作機メーカー訪問
ものづくりのハードルを限りなく低く——世界一の個人向けCNCを造るオリジナルマインド
「参考になるものはなかったといいますか、参考にしていたらとても9万8000円にはならなかったですね。(mini-CNCでやったように)板金でCNCを作るってこと自体が“非常識”ですし、リニアガイドも使わずシャフトにブッシュを付けて済ませたのも“非常識”で、設計に慣れた人が見たら『すごくダサい』と思われる造りです。でも、そうしなければ絶対に9万8000円は実現できないと思ってやったのですが、結構苦労しました」(中村氏)
その後、mini-CNCシリーズは次々とバリエーションを増やしながら売り上げを伸ばし、中村氏一人では回らなくなって2008年にはCNCの設計技術者も採用した。そして2011年には名称を「KitMill」に変更して今に至る。これまでmini-CNCシリーズ9機種、KitMillシリーズ9機種の計18機種をリリースしているが、小さな会社が2003年からの8年間に、比較的ニッチな市場の製品を16機種も出すというのはなかなかすごい。ちなみに「mini-CNC」という名前も中村氏が付けたのだが商標登録していなかったこともあって、小型のCNCが一般名称として「ミニCNC」と呼ばれるようになってしまったために、「KitMill」に変えたのだそうだ。もちろんKitMillは商標登録済みだ。
コンセプトは「アパートで使えるCNC」
低価格小型CNCという分野に注力してきたオリジナルマインドが、CNCユーザーそのものをもっと増やそうという意気込みで開発したのが最新機種「KitMill Qt100」だ。KitMill Qt100を目にした人すべてがあっと思う特徴は、工作機械にもかかわらずカラーバリエーションが5色もあること。しかもパステルカラーで、とがった部分が少なく丸みのあるボディパーツと相まって、これまでCNCを使ったことのない人でも親しみやすさを感じる製品となっている。
また同社としては初めて、発売に当たってMakuakeでクラウドファンディングを実施したが、たちまち話題となって目標額の100万円は早々に達成し、最終的に324万4000円を集める大成功を収めた。海外のクラウドファンディングサイトでは時おりCNCが登場して資金を調達しているが、日本でクラウドファンディングによってCNC製品の資金調達をし、しかもそれが大成功したというのはKitMill Qt100が初めての例だろう。
KitMill Qt100の開発が本格的にスタートしたのは2014年のこと。当初は、カラーバリエーションもクラウドファンディングを利用することも考えていなかったという。KitMill Qt100のコンセプトや開発に当たっての苦労を話してもらった。
「KitMill Qt100はもともと『アパートで使えるCNCを作る』ということで始まったんです。アパートで使おうと思ったら、切削音や切りくずの問題をなんとかしなければいけません。そのためテーブルを動かす形式としてシャフトとブッシュの組み合わせではなく、がたつきのほとんど無いリニアガイド形式にしました。また、(従来機種の)SRを作っているとき、こういう構造にすると静かだということが分かってその技術も利用しています。販売価格(19万8000円)をもっと高くできるなら簡単なんですが、この価格のまま静かにするというのが難しかった」(柴田氏)