Omotenasy 今村泰彦/西村拓紀インタビュー
音の体験は没入感から臨場感へ、フルオープンエアーの新世代ヘッドフォン「VIE SHAIR」の革新
スピーカーから大音量で音楽を流さず、ヘッドフォンを着けて楽しむサイレントディスコやサイレントライブをご存じだろうか。「VIE SHAIR(ビー シェア)」はそうしたイベントの参加者同士がコミュニケーションを取れるようになる新世代のヘッドフォンである。「マラソンをしながらランナー同士で音楽を共有し、ディスコ体験ができたら面白いのではないか」というアイデアから2015年4月にプロジェクトをスタート。数々のイベントにプロトタイプを出展し、ユーザーの意見をもとに改良を重ねた末、2016年3月にKickstarterでプロジェクトを公開。一カ月で目標金額の調達に成功した。
コンセプトからプロダクトに落とし込んでいくまでの苦労を、VIE SHAIRを開発した今村泰彦氏と西村拓紀氏にお話を伺った。(撮影:加藤甫)
誤解から生まれたアイデアがプロジェクトを動かした
今村氏は、音楽が好きで音楽業界に11年間勤め、ワーナーミュージック・ジャパン、マーベラスAQL、Evernoteでの就業経験まで多彩な職歴を持つ。Evernote在籍中に、ディスコとマラソンを掛け合わせたイベントがあることを知って、イベントに興味を持った。今村氏の想像では、イヤフォンやヘッドフォンを装着して、音楽を共有しながら、みんなで走る姿だった。しかしそれは誤解で、10kmマラソンを走りライブステージに着いてから踊るイベントだった。だが、「実際にそういうイヤフォンやヘッドフォンがあっても面白いのではないか」と思い始めたのが、プロジェクトのきっかけだったと今村氏は語る。
そこから3カ月掛けて、同じような製品が世の中に出ていないか、どうしたら実現可能かを徹底的に調査。市場には、まだ同じような製品は存在せず、技術的にもイヤフォンやヘッドフォンからBluetoothでスマホと通信すれば実現できることが分かったが、開発に莫大な費用が掛かることも分かった。
今村氏は当時、ソフトウェア業界に所属し、ソフトウェアでは、どうしても手が届かない世界があると感じていた。ハードウェアなら、ソフトウェアと異なり、ユーザーの目の前にいきなり製品を届けて、その人に影響を与えることができる。今村氏は、ハードウェアに魅了され、半年後には、このアイデアなら開発費用を抑えて作れると確信し、プロジェクトを本格的に始めたという。
まずはプロトタイプを作ろうと、今村氏は機械設計まで理解したプロダクトデザイナーを探し、知人から西村氏を紹介してもらった。IoT界隈は特に、機械設計を理解したプロダクトデザイナーがまだまだ少ない。西村氏は、パナソニックでプロダクトデザインを担当した後、2013年に西村拓紀デザインを設立。創業から数々のプロダクトデザインを担当する。
「こういう機械設計まで考えたプロダクトデザインってコミュニケーションが特殊です。イスやテーブルを作るのと違って、基板のレイアウトも考えないといけません」と西村氏は語る。
当初は、Omotenasyのアウトソーシング先として仕事をしていたが、2015年4月に「これからの時代はクリエイティブが必要だから」と、Omotenasyに役員として加わってくれないかと相談され、西村氏もVIE SHAIRに面白さを感じていたので即OKしたという。そこからプロダクトデザインのスピードが加速した。